ロマン・アブラモヴィッチ氏はロシアのウクライナ侵攻後に、英チェルシー・フットボールクラブを売却した
アレックス・パートリッジ政治記者、エメ・モロー・ビジネス記者、デイミアン・グラマティカス政治担当編集委員
ロシアの新興財閥(オリガルヒ)で、サッカーの英プレミアリーグのチェルシーの元オーナー、ロマン・アブラモヴィッチ氏が、同クラブの売却益をめぐりイギリス政府と対立している。キア・スターマー英首相は17日、アブラモヴィッチ氏に対し、この資金をウクライナの戦争被害者に「今すぐ支払わなければ」法的措置に直面することになると警告した。
アブラモヴィッチ氏は2022年、チェルシーの売却で得た25億ポンド(約5200億円)を、ロシアによるウクライナ侵攻の被害者のために使うと約束していた。
しかし、資金の具体的な使途をめぐって対立し、支払いは遅れている。この資金は現在、イギリスの銀行口座で凍結されている。
イギリス政府は、この資金を人道支援に使うことを望んでいるが、アブラモヴィッチ氏は「戦争のすべての被害者」に使うべきだと主張している。これは、ロシア人もこの資金の恩恵を受ける可能性があることを意味している。
オリガルヒであるアブラモヴィッチ氏は、イギリスの制裁下で資金にアクセスできないが、チェルシー売却による収益は、法的には依然として同氏の所有となる。
スターマー氏は下院で、イギリス政府が「2022年から凍結されているチェルシー・フットボールクラブ売却による25億ポンドの移転」を認可したと説明した。
また、「アブラモヴィッチ氏への私のメッセージは明確だ。時は迫っている」と述べた。
「自分の約束を守り、今すぐ支払いなさい。そうしなければ、我々は法廷に持ち込み、プーチン(ロシア大統領)の違法な戦争で人生を引き裂かれた人々に、1ペニー残らず届くようにする」
イヴェット・クーパー外相はBBCに対し、アブラモヴィッチ氏は「その約束を守り、その資金を支払う必要がある」と語った。
法廷闘争が数年にわたり手続きを引き延ばす可能性があるかという質問に、クーパー氏は「彼には、さらなる法的措置を取らないよう強く求めている」と述べた。
一方でクーパー氏は、アブラモヴィッチ氏が行動しない場合、政府はこの問題を法廷に持ち込むだろうと認めた。
アブラモヴィッチ氏の代理人はコメントを控えた。
英財務省は、認可の条件に基づき、資金はウクライナの「人道的目的」に充てられると強調。アブラモヴィッチ氏やその他の制裁対象者の利益になってはならないと述べた。
イギリス政府は今年6月、アブラモヴィッチ氏を提訴すると初めて警告した。
レイチェル・リーヴス財務相は「ウクライナ国民に支払われるべき25億ポンド超の資金が、イギリスの銀行口座に凍結されたまま放置されることは容認できない」と述べた。
ロシアの石油・ガスで財を成したアブラモヴィッチ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻後、チェルシー売却の特別認可を付与された。ただし、売却によって自身が利益を得ないことを証明する必要があった。
同氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と強いつながりを持つとされているが、本人はこれを否定している。
アブラモヴィッチ氏が90日以内にこの件に対応しなければ、イギリス当局が法的措置を検討することになるとみられている。
欧州連合(EU)は18日にも、域内で凍結されてきたロシア資産をウクライナの軍事・経済資金調達への融資にあてる計画を審議する予定。ロシアはこの案に強く反対している。
(英語記事 Starmer tells Abramovich to 'pay up now' or face court)
