北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長
北大西洋条約機構(NATO)のマルク・ルッテ事務総長は17日、BBCの単独インタビューに応じた。その中で、NATO加盟各国が防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げることで合意したことは、アメリカのドナルド・トランプ大統領の「最大の外交成果」だと語った。
ルッテ氏はBBCラジオ4の番組「PM」のインタビューで、NATOが「かつてないほど強固」になったのはトランプ氏のおかげだとし、トランプ氏が「集団防衛、NATO、そしてウクライナにとって朗報をもたらしている」と付け加えた。
トランプ氏はかねてから、ヨーロッパの同盟国が防衛費をわずかしか支出していないことを厳しく批判してきた。欧州各国が防衛費を引き上げなければ、アメリカはヨーロッパを守らないだろうと脅すこともあった。
そうした中、ルッテ氏は昨年12月、加盟国に防衛費拡大を要請。各国の防衛支出は、将来のロシアとの紛争に備えるには不十分だと警告した。
そして今年6月のNATO首脳会議で、加盟各国は防衛費をGDPの5%まで引き上げることで合意した。
プーチン氏は「正気ではない」
ルッテ氏は今月11日にも、ロシアが今後5年以内にNATO加盟国を攻撃する可能性があると、強い警告を発している。一方でロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、こうした主張をヒステリーだとして一蹴した。
「私は繰り返し言ってきた。欧州諸国に対するロシアの脅威などという話はうそで、ばかげていると。まったくばかげている」と、プーチン氏はモスクワで国防当局者らに語った。
プーチン氏は2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始し、同年9月末にウクライナの東部ドネツク、ルハンスク、南部ザポリッジャ、ヘルソンの4州を一方的に併合した。ロシアはそれ以前の2014年に、ウクライナ南部クリミアを一方的に併合している。
現在、ロシアはルハンスク州の大部分を占領している。東部ドネツク州はウクライナが23%をなお管理しているが、ロシアは同州からのウクライナの撤退を要求している。
プーチン氏は、自らが「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事侵攻の目標は達成されるだろうと述べた。
プーチン氏は、その目標が外交を通じて達成される方が望ましいとしつつ、「対立する側とその外国の支援者が、実質的な議論に応じるのを拒否するなら、ロシアは軍事的手段によってロシアの歴史的領土の解放を達成することになる」と警告した。
ルッテ事務総長は、プーチン氏の「ウクライナへのアクセスを取り戻したいという、(個人的な)歴史的考え」や、旧ソ連構成国の全領土を取り戻そうと追及する動きによって、ロシアで約110万人の死傷者を出しているのは「正気の沙汰ではない」と指摘した。
「安全の保証」で将来的な侵攻は防げるのか
ルッテ氏はインタビューの中で、ウクライナでの戦争終結に向けたトランプ氏の取り組みを称賛した。
アメリカの代表団は、トランプ氏が提案した和平計画について、ウクライナ当局と集中的な交渉を続けている。トランプ氏の和平計画の草案は、ロシア寄りと受け止められていた。
この計画は、ウクライナ東部の支配権をロシアに渡すことや、将来的なロシアの侵略を未然に防ぐことを目的としたウクライナへの安全の保証などを想定している。
アメリカの当局者は、米政府がNATO条約の第5条をモデルとした安全の保証をウクライナに提供する用意があるとしている。第5条では、加盟国に対する武力攻撃は全加盟国への攻撃と見なし、防衛に協力すると定めている。
ルッテ氏はBBCに対し、「安全の保証があれば、彼(プーチン氏)は二度とウクライナを攻撃しようとしないはずだ。そんなことをすれば、我々が壊滅的な結果を招く対応を取ることになるからだ。我々は今まさにこのことを議論している」と語った。
15日にドイツ・ベルリンで、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と協議した複数の欧州同盟国は、「ウクライナ部隊の再建を支援し、ウクライナの空を守り、海の安全を強化し、さらにはウクライナ国内で活動する」欧州主導の部隊の構想もあるとしている。
こうした構想に、プーチン氏は反発している。
ロシアはヨーロッパとの衝突を望んではいないが、ヨーロッパが戦争を望むのなら、あるいは戦争を始めるのなら、「今すぐに」対応する用意はあるとも、プーチン氏は警告している。
ロシア政府は2022年当時も、戦争は望んでいないという趣旨の話をしていた。しかしその直後、20万人規模のロシア部隊が国境を越え、ウクライナに侵攻した。
ウクライナでの戦争が4年目に入ろうとしている中、ウクライナを支援する欧州諸国は、ロシア政府への経済的圧力を強めて戦争を止める案を議論している。
欧州連合(EU)の指導者たちはこの数カ月間、ウクライナ全面侵攻開始以来EU域内で凍結されてきたロシア資産を、ウクライナの軍事・経済支援に活用する案を検討してきた。議論を呼んでいるこの問題は、18日のベルギー・ブリュッセルでのEU首脳会議の議題となっている。
EU首脳会議の前夜、ゼレンスキー氏はEU各国の指導者に、勇気ある対応を取るよう求めた。
「これらの会議の成果、つまりヨーロッパにとっての成果は、ウクライナが支援を取りつけ、ロシアが来年も戦い続けるのは無意味だと感じるようなものでなければならない」
兵器製造能力の差
ロシア経済はすでに3年以上にわたり戦時体制にあり、製造業はドローン、ミサイル、砲弾を増産し続けている。
ドイツのキール世界経済研究所の最近報告によると、ロシアは毎月、戦車約150両、歩兵戦闘車約550両、ドローン「ランセット」120機、そして火砲50門以上を生産している。
一方、イギリスと西側の同盟国のほとんどは、この水準にはまったく達していない。
専門家らは、西欧のメーカーがロシアの兵器大量生産に近づくには数年かかると指摘している。
フランスとドイツは先に、18歳を対象とした志願制の兵役制度を復活させる動きを見せている。
NATOには30の欧州諸国に加え、同盟内で最も強力な軍事力を持つアメリカとカナダが含まれている。
トランプ氏の圧力を受け、加盟国は6月、オランダ・ハーグでの首脳会議で、加盟各国が防衛費をGDPの5%まで引き上げることで合意した。共同声明で加盟国は、「ロシアによる長期的な脅威」とテロリズムを課題として挙げた。
ルッテ氏はBBCのインタビューで次のように述べた。「現在の我々は、これまで以上に強い。しかし、ハーグでの合意を実行しなければ、数年後にはロシアよりも弱体化し、極めて危険な状況に陥ることになる」。
(英語記事 Nato spending pledge is Trump's biggest foreign policy success, Rutte tells BBC)
