中央アジアを取り巻く情勢変化
中央アジア5カ国合計の直近の人口は約8360万人、対日貿易総額は3309億円となっている。地理的には、古くからシルクロードとして知られたように、アジアと欧州をむすぶ戦略的な中間地帯であり、同時に鉱物資源やエネルギー資源などが豊富に埋蔵されている。
たとえばカザフスタンは世界最大のウラン鉱脈が、ウズベキスタンには巨大な金鉱脈が、トルクメニスタンにも豊富な天然ガスがある。また、地域全体には希少金属も多く埋蔵されている。しかし中央アジア5カ国は、北にロシア、東に中国、南にイランとアフガニスタン、そして西にカスピ海を挟んで再びロシアとアゼルバイジャンに囲まれている。このため実際には、資源の開発だけでなく、これを物理的に国際市場に届ける輸送ルートの多様性確保という大きな課題がある。
中央アジア地域は、19世紀後半に列強間、特に北に控えるロシアと、南の中東を掌握していたイギリスの間で、いわゆる「グレート・ゲーム」と呼ばれた角逐があり、この後に確定した勢力圏を受け継ぎ、拡張する形で、20世紀にはソ連を形成する一角に組み込まれていった。これがソ連崩壊を経て、1990年代に入ると相次いで独立し、現在の中央アジア5カ国となっていった。
ただし、ロシアとの関係は密接であり、1991年に旧ソ連構成国で結成された独立国家共同体(CIS)への参加をはじめとして、経済および安全保障の面でも依存が継続した。これに対してロシアでも、中央アジア諸国が自己勢力圏であるとの認識が続いた。
こうした「常識」が、明白に崩れ始めたのが2022年以降である。同年のロシアによるウクライナ侵略の開始によって、中央アジア諸国にとって濃淡はあるものの、過去四半世紀以上に確立されてきた独立国家としての意識も相まって、ロシアへの警戒や自立に向けた動きが顕在化していった。
たとえば同年には、カザフスタンのトカエフ大統領が、ロシアによるウクライナ東部2州の併合は認められないと発言。CIS首脳会議では、タジキスタンのラフモン大統領がロシアとプーチン大統領に直接の苦言を呈するなどの動きが表面化した。同時に、各国は個別利害を抱えつつも、中央アジア5カ国として集団的に利益を追求するというパターンが確立されていった。
新たな「グレート・ゲーム」の幕開け
この中央アジアにおける変化を敏感に察知し、まず機会に乗じたのは中国であった。23年5月、中国の西安では中央アジア5カ国首脳を招いて「第1回中国・中央アジアサミット」が開催された。ここでは中央アジアを「一帯一路」に包摂したい中国側と、ウクライナ侵略以降のロシア不安定化の影響を避けつつ、新たな経済機会を確保したい中央アジア諸国側の思惑が一致した。
そして25年6月にも、カザフスタンのアスタナで「第2回中国・中央アジアサミット」が開催され、中国との間で「永久善隣友好協力条約」が締結されている。だが中国の思惑通りに、中央アジアへの影響力・支配力が一方的に強まるのかと言えば、そう簡単ではない。
中央アジア側は、近代以降の「ロシアのくびき」が名実ともに壊れゆくというパラダイム転換の中、自らの安全保障と経済利益を確保する上での手早い方法として、中国との関係強化に動いた。だが中央アジア諸国とて、自らが新たな「中国のくびき」に絡めとられることを望んではいない。
