2025年12月23日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年12月23日

 このため米国との間でも、22年8月に中央アジア5カ国がタジキスタンで合同軍事演習を開催し、23年2月には「中央アジア+1(米国)」外相会議を開催するなど、関係構築を模索してきた。そして25年11月には、トランプ大統領が中央アジア5カ国首脳をホワイト・ハウスに招待し、首脳会談が開催されている。

 このように21世紀の新たな「グレート・ゲーム」が幕を開ける中で、その舞台である中央アジア5カ国は、大国間の一方的な角逐に巻き込まれることなく、しかし現実の地理的制約がある中で、自らにもっとも有利なバランスを追求・構築しようとしている。ここに日本という新たな要素が加わることは、中央アジア側にとっては、有力な手札が1枚増えることを意味し、今回の東京における「CA+JAD」首脳会談の開催は、時宜を得たものであったと言える。

日本は「グレート・ゲーム」をプレーできるのか?

 実のところ、日本の中央アジア地域へのアプローチは、出遅れていた訳ではない。すでに04年には公式な協力枠組みが形成されており、以降10回にわたって日本と中央アジア5カ国の外相会談が開催されるなど、着実な交流が積み重ねられてきた。

 そして本来であれば、24年8月に当時の岸田文雄首相が中央アジア5カ国首脳との会談のため現地を訪問する予定であったが、同月の南海トラフ地震臨時情報発令によってキャンセルされたという経緯があった。したがって、今回の「CA+JAD」首脳会談と「東京宣言」は、20年来の外交努力の成果でもあったとも言える。

 しかし過去20年の間に、中央アジアだけでなく日本を取り巻く環境も大きく変化した。グローバリゼーションによって国際関係の緊張が低減する一方で、国境を越えた自由な経済活動が活発化した時代は過ぎ去った。

 高市首相が述べたように、「昨今の国際情勢の変化により、中央アジアを取り巻く環境が急激に変化している今こそ、地域協力と世界との連携がますます重要」との考えは正論である。だが日本からは遠く離れ、しかも中露両国に近接した中央アジアでの「グレート・ゲーム」に関与するには、相応の覚悟を伴った「大きな戦略」が必要となる。

 ところが、重要鉱物資源のサプライチェーン強靭化にしても、ロジスティクスの「カスピ海」ルートを整備するにしても、そこに日本の具体的勝算はあるのだろうか。中央アジアを越えてアゼルバイジャンやアルメニアに通じ、トルコ(中央アジア諸国と「テュルク諸国機構」を形成)、そして欧州に至るような構想は、すでに日本主導の具体的ビジョンとして用意されているのであろうか。

 実のところ「CA+JAD」首脳会談や「東京宣言」からは、そうした「大きな戦略」は見えないし、それを単独あるいは同盟国との協働で実現させる実力が、今も昔も日本には備わっていない。

 中央アジアへ日本がガバナンスやエコシステムの開発・支援を通じて、地域間や世界との連携を「お手伝いする」ことは、理念として間違ったものではない。しかし、それは古き良き時代の「国際協力」の延長線上にあって、苛烈な現実に適応できていない。あるいは具体的利益に結び付かないものを追求する余力は、もはや日本にはない。

 現在の日本の取り組みが真の意味で国益に資するものかについて、今一度、我々自身の覚悟を問い直さなければならない。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

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