2026年2月18日(水)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2026年2月18日

 過去採用されていた2万2195トン(投棄分を含めると2万4000トン)というTACは、米国のこの海域での過去最大漁獲量に基づいている。この数字に固定していたのは、資源量がよくわかっていないものの、資源分布域のごく一部でしか操業が行われていないこと等から、漁獲の程度は軽微(lightly exploited)との判断による(MAFMC 2018, p. 7)。もしスルメイカを過去米国がカナダマツイカの管理で行っていたのと同様に、過去の最大漁獲量で固定すると、以下の図のようになる。

25年漁期のTACは当初枠である19,200トン。過去最大漁獲量は、前掲の水産庁スライドに示されている、秋季発生系群(2006年・37.4万トン)と冬季発生系群(2000年・31.5万トン)を足し合わせたもの。(筆者作成) 写真を拡大

 過去の米国方式は、あくまで漁獲の程度が極めて限定的であるとの前提に基づいている。スルメイカにはこれが全く当てはまらない。

 スルメイカが回遊する日本の海の至る所で漁獲されており、資源量(親魚量)は、これを超えると「乱獲(overfished)」と定義されるMSY(最大持続生産量)水準を大きく下回っている。このため、「漁獲の程度が軽微」という前提を外してスルメイカにそのまま当てはめると、上図のように一見して明らかにナンセンスなTACが設定されてしまうのである。

 実は水産庁は、スルメイカの漁獲枠拡大の拠り所とした「米国のカナダマツイカ方式」が、過去最大漁獲量を意味することを知っていた。20年から22年にかけてスルメイカの漁獲枠について、漁業者を交えた意見交換会や水産政策審議会で話し合われていた際、諸外国の方式も検討されていた。この関係でスルメイカの漁獲枠決定が議題となっていた21年1月開催の水産政策審議会で、米国の方式を正しく説明した資料を配布している。

水産政策審議会資料。米国がカナダマツイカ(shortfin squid)のTAC設定に際して過去の漁獲実績中、最も高い漁獲量からABC(漁獲枠に関する科学勧告)とTACを設定していると記載されている。なお、MAFMCは漁獲が好調であることを鑑み2019年にTACを若干上方修正(27,266トン)しており(MAFMC 2020)、上記資料にはこの数字が記載されている。(出所)水産庁(2021)「世界のイカ管理の例」(水産政策審議会第107回資源管理分科会配付資料) 写真を拡大

 ところがこの後水産庁は、資源評価を委託している水産研究・教育機構(以下「水研機構」)に対して、今回枠を大幅増加させる根拠として持ち出してきた謎の計算式が「アメリカにおけるマツイカの方式」であるとして、これに基づいてTACの計算をするよう求めている。委託を受ける立場にある水研機構はこれに従わざるを得ない。

水産庁から水研機構への要請。「アメリカにおけるマツイカの方式」は「過去最高の漁獲量を記録した年の漁獲割合により、直近2年及び3年の資源量に対し漁獲したときの漁獲量をTACとする」と計算法を指定している。(出所)「水産庁からの検討依依頼書」(スルメイカ秋季・冬季発生系群に関する研究機関会議(2021年8月30日)資料)

 この時水研機構は、こうした計算に基づいてTACを決定した場合、資源(親魚量)が5年後に禁漁水準を下回る可能性が44~91%もあると指摘(水研機構(2021)「外国事例を参考にしたTACの試算」21頁の補足表1-1参照)、結局この案が採用されることはなかった。今回の増枠では、こうしたリスク計算の検討すら一切なされていない。過去に禁漁水準の可能性すら警告されたことがある枠の設定が資源保護の観点や科学とは無縁であることは論を待たない。

漁業法違反の疑い、行政訴訟の恐れも

 今回スルメイカに設定しようとしている漁獲枠は、漁業法に違反している可能性も高い。

 漁業法ではTAC設定に際し、MSY(最大持続生産量)水準の値を「目標管理基準値」、MSYの実現が著しく困難になることを防止するための値を「限界管理基準値」として定め(第12条)、目標管理基準値にまで回復・維持するとの基準に従ってTACを設定する(第15条2項)と規定している。このため、これまでTACが設定されている資源については、MSY水準である「目標管理基準値」とMSY水準回復のための「限界管理基準値」、MSYと紐づける形で漁獲圧力の決定方式(「漁獲シナリオ」と呼ばれる)が定められ、この漁獲シナリオに基づいてTACが算定されている。

 ところが、今回提案された6万8400トンというスルメイカのTACは、MSY水準に一切紐づけられていない。スルメイカは資源状態が極めて悪いため、これまでは「限界管理基準値」(秋季系群はMSYの80%、冬季系群はMSYの85%)を暫定的な管理基準値として設定し、とりあえずここまで目指そうという、低い資源回復目標が設定されていたが、それでも最低限MSYには紐づいている。今回はそれすら存在しないのである。

今回提案されている漁獲枠増加提案に関する水産庁資料。右欄「変更前」にある現行の漁獲シナリオでは2034年までにMSYに紐づいている暫定管理基準値に達成するよう漁獲圧力を調整するとされているが、左欄の「米国の管理方式を適用する場合」の「変更後」の漁獲シナリオでは、過去の最大漁獲量と近年の資源状況により管理するとされるのみで、MSYとの紐づけが存在しない。(出所)水産庁「資源管理基本方針の一部を変更する告示案についての意見・情報の募集について(別添1)」14頁。 写真を拡大

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