身近な海産物の一つだったはずのスルメイカが我々の食卓から遠ざかりつつある。東京都中央卸売市場統計によると、2002年にキロ当たり387円だった価格は、24年には約3倍の1310円に上昇、特に近年の急騰が目立つ。かつては安価な酒の肴であったイカの「乾きもの」の価格も上昇、パッケージをよく見てみると、スルメイカ以外の海外産のイカ製品が目立つ。
その最大の原因は、スルメイカの漁獲量の壊滅的な減少にある。水産庁の資料によると、2000年に約30万トンあった漁獲量は、1万7998トンにまで落ち込んでいる。実に94%の減少である。
日本周辺のスルメイカには、主に日本海に分布する秋季発生系群と、太平洋を中心に日本海にも⽣息する冬季発生系群の2系群が存在しているが、いずれも資源状態は極めて悪い。
スルメイカに限らず、水産資源は繁殖して増加した量に留まる範囲で漁獲すれば、資源を将来にわたり利用することが可能だ。そこで20年に施行された新たな漁業法の下、資源の増加量が最大になる最も望ましい親魚の量(水産資源管理の専門用語では「SBmsy」と呼ばれる)を「目標管理基準値」、それを割ることは極めて望ましくない「限界管理基準値」を設定するなどして、漁獲量を調整することが原則とされている。
ところが、現状のスルメイカの親魚は、秋系群も冬系群もともに「目標管理基準値」どころか「限界管理基準値」すら大幅に下回っている。資源が減り過ぎて、子供を生んで資源を増やすだけの量が極端に不足している状態だ。
こうした中、今夏太平洋側で予想外に漁獲量が積み上った。水産庁の資料によると、青森、岩手、宮城の主要太平洋側漁港での7~8月の漁獲量が、昨年の500トン未満から2000トン近くに達していた。
こうした事情を背景に、あろうことか水産庁は漁獲枠の拡大を急遽検討し、実施に踏み切った。資源量が減っているにもかかわらず、さらに獲ろうとしているのである。資源の現状を知る関係者を驚愕させた。


