2025年12月5日(金)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2025年10月6日

水産庁自身否定していた枠の中途改定

 漁期途中での枠拡大について、かつては水産庁自身が否定的な立場だった。改正漁業法の下でスルメイカの漁獲枠を設定するに際し、水研機構の科学者たちが漁期途中での調査データをもとにして資源量推定を行うと、全体として精度が上がる年もあれば下がる年もあったとし、漁獲枠の中途改定は問題があるとの見解を提示していた。これを踏まえ水産庁も、スルメイカ資源管理に際し「漁期中の漁獲可能量(TAC)の改定というのを行わないとするのが適当」と結論付けた(水産庁「第1回資源管理方針に関する検討会(スルメイカ全系群)議事録」(2021年10月29日)、40~41ページ)。

 今回の決定は、過去自らが発言した立場とは180度異なっている。この問題を審議し最終的に承認した水産政策審議会ではさすがに一部委員から強い異論が提示され、漁獲枠算定のベースとなるシナリオの再計算を求める声も上がった。

 これに対して水産庁は増枠が「資源の着実な回復を妨げるものではない」としているが、その根拠となるべきシナリオの再計算を拒否している。

裏には一部業界団体と政治家の声

 水産庁が態度を一変させた背景には、増枠を求める一部業界と政治家の意向があったと考えられる。突然の豊漁に対し、このままでは今年漁期の漁獲枠に達して漁ができなくなってしまうと懸念した底曳網の業界団体は、水産庁OBの会長自らが水産庁長官に面会を求め漁獲枠見直しを要望地元出身の自民党代議士(神田潤一衆院議員・青森2区)も選挙区のスルメイカ漁業関係者を伴い小泉進次郎農林水産相や水産庁長官に増枠を陳情した。野党第一党の立憲民主党までも地元選出代議士(逢坂誠二衆院議員・北海道8区)が増枠を推進したのである。

 日本のこれまでの水産資源管理では、漁獲量が積み上がってTACが超えそうになると、途中で枠を上方修正するのが常であった。これでは枠を設定した意味がない。20年の改正漁業法下では、こうした期中改定はこれまで行われてこなかった。この先例をスルメイカによって破ってしまった。

 新たに改定された枠は、当初の1万9200トンから2万5800トンへと、6600トン積み増されている。水研機構は当初、1万200トンの枠が妥当と評価していたが、水産庁は1万9200トンという2倍の緩い枠を設定していた(当初のスルメイカ漁獲枠が設定された経緯については拙稿「スルメイカの漁獲量97%減の衝撃!組合、販売会社も倒産、乱獲放置の資源管理にメスを」参照)。

 今回の改訂により枠はさらに緩められ、科学勧告の2.5倍に達している。繰り返しになるが、スルメイカ資源の状態は限界管理基準値を下回っている。こうした中、少し獲れるようになったからと言ってたちまち規制を緩めては、せっかく資源回復の可能性を自ら潰してしまうに等しいと言えないだろうか。

 なお、一部業界団体は今回の増枠だけでは満足していないようで、さらなる拡大を求めている。さすがに水産庁もこれについては否定的なようだが、これには地元選出の立憲民主党議員(田名部匡代参院議員(青森県選挙区)および横沢高徳参院議員(岩手県選挙区))が「緊急要請」として地元底曳網漁業団体の手紙を携え水産庁長官に増枠を要望している。「多様な生物や自然環境との調和をはかり、持続可能な社会をめざす」という党の綱領は何処かに行ってしまったようである。


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