科学的根拠はほぼゼロ
この枠拡大を正当化するため持ち出されたのが、豊漁に恵まれた海域での釣獲率(「CPUE」と呼ばれる)である。現在水揚げが好調なのは太平洋側で漁獲される冬季発生系群だが、水産庁が提示した資料によると、青森県八戸市などでの小イカの釣獲率が著しく良い。それならば、同等の釣獲率だった頃と同じくらいの資源はあるだろう、というのが枠拡大の根拠となっている。
ところが、根拠とされたのはまだ始まったばかりの水揚げに関するもの。漁が本格化する9月以降については、このデータには全く含まれていない。
そればかりではない。三陸から道東沖というより広いエリアでのいか釣り調査によると、確かに全体の釣獲率は上向いているものの、その度合いはグラフを思い切り拡大しなければわからないほど微々たるものである。
(出所)水産庁「特定水産資源(するめいか)に関する令和7管理年度における漁獲可能量の変更について」
(注)「全体の平均CPUEは前年及び近年5年平均を上回った」としているが、三陸・津軽海峡及び道南・道東いずれの海域における釣獲率の増加も図を拡大しなければわからぬほどに少ない 写真を拡大
(注)「全体の平均CPUEは前年及び近年5年平均を上回った」としているが、三陸・津軽海峡及び道南・道東いずれの海域における釣獲率の増加も図を拡大しなければわからぬほどに少ない 写真を拡大
水産庁はスルメイカの増枠についての検討を自らの関係機関である水産研究・教育機構(以下「水研機構」と略)に依頼した。「親分」の意向には逆らえない、さりとて科学に背く評価をすることもできない。水研機構の科学者は困惑したであろう。
釣獲率増加は漁期序盤の三陸沖だけ、主要漁場の一つである道東域での漁獲量は三陸沖ほど伸びてはいないという点を「留意事項」としてわざわざ明記したのは、彼らの科学者としての精一杯の抵抗とも読める。


