2026年4月30日(木)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2026年4月30日

「社会的に不公平な措置」

 ただしメルツ政権が打ち出した対策については、消費者団体や学界から批判の声が強い。ベルリン市(州政府に相当)の内務委員イリス・シュプランガー氏(社会民主党:SPD)は、「わずか2カ月間にわたってエネルギー税を17セント引き下げるだけでは、焼け石に水だ」と指摘。ブランデンブルク州のディートマー・ヴォイトケ首相(SPD)は、「エネルギー税の引き下げは、税収を減らす。石油業界は燃料価格の上昇によって収益が増えているのだから、政府は偶発的収益に課税するべきだ。そしてこの課税による税収で、所得が少ない市民に対する援助金を支給するべきだ」と主張した。

 ポツダム消費者センターのヨシュア・ヤーン氏は、「エネルギー税引き上げで最も得をするのは、馬力が大きい車に乗り、燃料を多く消費する市民だ。本来は、所得が少ない市民に絞って援助金を払うべきだ」と主張した。

 エネルギー税引き下げによる市民の負担軽減効果については、否定的な意見が強い。ドイツでは22年のロシアのウクライナ侵攻の際にも、前のショルツ政権がエネルギー税を引き下げたが、石油販売企業が税率の引き下げ分の一部を保有したため、消費者の負担が十分に軽減されなかった。

メルツ政権のエネルギー税引き下げについては、「節約につながらない」という批判的意見が強い。(筆者撮影)

 ドイツ経済研究所のマルセル・フラッチャー所長は、「過去の経験から、エネルギー税率引き下げが、全額市民に行き渡るとは思わない。むしろ政府は市民に対して、燃料節約を訴えるべきだ。助成金によってこれまで通りの消費を促すことは、間違ったシグナルだ」と批判した。

 さらにフラッチャー氏は、1000ユーロのボーナスについても、社員に払えるのは、一部の大企業だけだと指摘し、「失業者、年金生活者、学生など、政府の援助を最も必要とする人々には支払われない。社会的に不公平な措置だ」と述べた。

 環境保護団体「ドイツ環境援助機関(DUH)」のユルゲン・レッシュ会長は、「メルツ政権によるエネルギー税引き下げは、燃料の消費削減に全くつながらない」と批判する声明を発表した。同氏は「いま我々は、外国から輸入される原油への依存度を減らすべきだ。我々は高速道路の全区間に時速100キロの最高速度制限を導入することを求める。市街地での最高速度を時速30キロ、それ以外の地域では時速80キロに制限するべきだ。これによって1年間に47億リッターの燃料を節約できる」と述べている。


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