最高裁判決の見通し
現在の最高裁の構成を見ると、バイエルが勝利する可能性が高いというのが法曹界の支配的な見解である。保守派判事が6人を占める現法廷において、国による一元的な規制は最も重視される価値観の一つだからだ。
もし最高裁がバイエル側の主張を認めて、「EPAによる判断を優先する」とした場合、現在係属中の約6万件の訴訟の法的根拠が消失し、バイエルは巨額の賠償リスクから解放されることになる。逆に、極めて低い可能性とされるが、最高裁が「製造物責任の最終的な判断は各州の陪審員に委ねられるべきである」とした場合、バイエルは事実上の経営危機に直面し、集団和解案も崩壊するだろう。
その中間が、連邦法と州法の「同等性」を厳格に審査することを要求する判決だが、EPAの見解に反する警告を、州が独自に行うハードルが高くなるので、実質的にバイエルが有利になるだろう。
最高裁の判断は、バイエル一社の運命に留まらず、米国の農業に大きな影響を与えることになる。グリホサートは、米国の農作物の90%以上に使用されており、特に「不耕起栽培」などの持続可能な農法を支える不可欠な技術となっている。トランプ政権が強調するように、司法の介入によってグリホサートが使用できなくなれば、農業コストは数千億円単位で増大し、結果として食料品価格の高騰を招くことは避けられない。
科学の審判は誰がするのか
判決は26年6月末までに下される予定であり、その結論は米国の法体系における「連邦主義」のあり方を再定義する歴史的遺産となることは疑いない。投資家、農業関係者、そして公衆衛生の専門家たちは、今、ワシントンの法廷から発信される微かな「兆候」に固唾を飲んで注目している。
本件の帰趨は、グリホサートという一化学物質の運命を超え、科学的判断の究極的な審判者は誰であるべきか、行政機関か、それとも陪審員かという、民主主義社会における根源的な問いに対する答えを提示することになるだろう。
