今回は、若干スタイルを変えて、近未来にAI(artificial intelligence; 人工知能)がもっと発達したら、今日私が診た患者たちのケアがどうなるかを想像してみたい。
認知症をもつ義母の介護
<本日の患者1>
Y.A.さん、75歳、女性、元青果店主。
M.A.さん、40歳、女性、Y.A.さんの長男の妻。
「M.A.さん、毎日Y.A.さんの介護で大変なことと思います。自分のための時間はとれていますか」
「えっ? いいえ、なかなか……私、なんか要領が悪くて、もっと上手くやれれば良いんですけど、お義母さんのお世話以外にお店の仕事もあるし、子供たちもまだ手がかかるので、気がつけば夜中で、1日が終わってしまいます」
Y.A.さんは、かつては町で人気の青果店を女手一つで切り盛りしていたが、5年前から認知症が発症し、嫁のM.A.さんが自宅で献身的な介護をしている。ただ、M.A.さんは義母の介護に全力を注ぐあまり疲労困憊してしまうことがあって、私は時々彼女自身のメンタル面にも配慮している。
近未来にAIがもっと発達したら、Y.A.さんの日々の日常生活動作(ADL; 食事、着替え、トイレ、入浴、移動などの基本動作)とバイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸数、意識など)の記録は自動的に生体信号(バイオシグナル)と行動ログから生成されて、クリニックのサーバーへ定期的に送られ、把握しやすい画面へ自動変換して現れるだろう。
必要に応じてオンラインでの遠隔診療も可能で、画面上のY.A.さんの様子や喋り方の画像解析で認知症の状態も評価できるだろう。歩行状態の動画解析から転倒のリスク評価もしてくれる。
処方薬、OTC医薬品、サプリメントなどの使用状況も把握でき、残薬を把握した上で無駄のない処方調整を提案してくれる。診療ガイドラインや薬剤相互作用を踏まえて有益性と害、そして費用対効果のバランスを考慮した最適な処方の推奨や注意を促すアラートが提供されるだろう。
これらの情報すべてが標準化された電子カルテと連動している。医師の診療時間の多くを占めているのは、カルテ入力(診療内容の記録)と診療情報提供書(紹介状)、訪問看護指示書、主治医意見書などの各種書類作成であるが、それが大幅に時間短縮される。カルテ入力は音声入力が主となり、必要に応じて動画と統合することで心理社会的に複雑な状況のニュアンスも言語化が可能になる。
各種書類作成は、電子カルテに統合されたデータベースからAIが必要な情報を取捨選択して下書きが用意され、医師はそれを確認して必要な編集を加えて最終版を承認すれば良い。
こうして医師は「キーボード」から解放され、患者の「目」を見て会話し、微細な表情の変化や非言語的なサインを読み取る時間を最大化できる。家庭医にとってこれは大きな恩恵である。
