2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年7月30日

 このようにして、2012年10月の参謀総長任命と11月の軍事委員会副主席任命をもって、胡錦濤は自分の引退後の軍掌握を完成させた。現在に至っても、共産党軍事委員会のただ二人の副主席は両方とも胡錦濤によって任命された軍人であり、もう一つの重要ポストの軍参謀総長も彼の側近が就いている。軍の中枢部は完全に胡錦濤の掌中にあるのである。

胡錦濤派が有利な状況で…

 このような形で軍を掌握しているからこそ、引退したはずの胡錦濤は影で糸を引いて習主席の腐敗撲滅運動(すなわち江沢民派掃討作戦)を主導することができたわけであるが、問題は、江沢民派の一掃を目指す腐敗撲滅運動がその目的を達成して終了してから、軍を握っている胡錦濤が一体どう動くのかである。それはまた新しい権力闘争の開始を意味するものとなろう。

 今の胡錦濤前主席と彼の率いる共青団派は、共通の敵である江沢民派を一掃するために習主席と連携していることは前述の通りである。しかし運動の目的が一旦達成されて江沢民派の残党が葬り去られて現役の江沢民派幹部も無力化されてしまうと、つまり共通の敵が消えてしまうと、次なる権力闘争はむしろ胡錦濤前主席と習主席との間で、すなわち共青団派と太子党との間で展開されていくはずである。

 胡錦濤自身が「第二の江沢民」と化して行く中で、習主席は今後十年もその顔色をうかがって生きていくのはやはり嫌であろう。とくに太子党である習主席の場合、自分たちの父親が命をかけて作った共産党政権に対して自分たちこそが正当なる後継者であり本当のオーナーであるという意識が強い。習近平は、「雇われ社長」の胡錦濤の政権壟断は許せないであろう。従って、江沢民派が潰滅した後には、習主席にとって排除しなければならない人物はまさに胡錦濤であるに他ならない。両者間の激しい戦いが予測されるのである。

 しかし習主席にとって、次なるこの戦いはまったく勝算のないものであろう。軍と警察を握った大幹部が既に引退して力の大半を失った江沢民派とは違って、今の胡錦濤が確実に軍を掌握している。6月27日掲載の私の論文でも、今や「胡錦濤の軍人」の代表格の一人となった房峰輝参謀総長の増長と跋扈を紹介しているが、軍の中枢部を占めている彼ら胡錦濤派の軍人たちが習近平主席を何とも思っていないことは明々白々である。

 その一方、胡錦濤派は軍だけでなく、実は共産党の政治局でも大きな勢力を擁している。政治局常務委員以外の18名の政治局委員のうち、いわゆる共青団派の幹部が7名もいて、さらに胡錦濤の息がかかっている軍人の二人を加えると、総数半分の9名を占めることになっている。しかも、政治局委員となっている胡錦濤派の幹部たちは現時点で50代前半である人が多く、最高指導部の年齢制限が定着している中で、彼らこそが2017年開催予定の次の党大会後も政治局に残る公算である。逆に、胡錦濤派以外の政治局委員の多くは現時点でも既に60代後半となっているから、次の党大会では確実に引退することとなろう。


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