2026年8月19日(水)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2026年8月19日

流出した「非公開の日記」

 この公聴会には、もう一つの爆弾が仕掛けられていた。ポール議員が、ファウチ氏の1000ページを超える私的な日記を事前に公開したのである。日記には、公の場での発言とは微妙に食い違う私的な記述があった。

 例えばウイルスの起源について、公式には実験室流出説を否定していた時期にも、日記では「市場は発生源ではなく、あくまで感染を広げた増幅器だった」と書き留めている。ポール議員はこれを、「日記には本音を書き、国民には別のことを語った」二枚舌の証拠だと攻め立てた。

 もっとも、この日記にはポール議員の主張を裏づける決定的な新証拠はほとんど含まれていないという、冷静な評価が多い。それでは何が問題とされたのか。一つは中国への資金提供である。ファウチ氏の研究所は、中国・武漢のコウモリ・コロナウイルス研究に資金を出していたのだが、この研究の危険性について、議会で正直に説明しなかったという疑いである。

 次は、ウイルスの実験室流出説を意図的に抑え込んだという批判である。私的には流出の可能性を認識しながら、公には「自然発生」を強調したという主張だ。しかし、ウイルスの起源についての見解は割れており、米連邦捜査局(FBI)は「実験室での事故」の可能性が高いと評価し、多くの科学者は、感染したコウモリから別の動物を介して人に広がったとする自然発生説を支持し、決着はついていない。

 さらに、ロックダウンやマスク着用の義務化といった対策が、過剰で害の大きいものだったという批判、そして、ワクチンを強く推進する一方で、代替的な治療を軽んじたという批判である。

トランプ大統領との「愛憎劇」

 この物語をいっそう興味深くしているのが、トランプ大統領との複雑な関係である。思い起こせば20年、パンデミックの初期にファウチ氏を頼りにしていたのは、ほかならぬトランプ大統領(第1期)だった。記者会見の壇上に2人が並ぶ姿は、当時の見慣れた光景である。

2020年3月、ホワイトハウスで Covid-19 について記者会見を行っていたファウチ博士(The White House from Washington, DC, Public domain, via Wikimedia Commons)

 だが、根拠の薄い「特効薬」を推奨する大統領のかたわらで、それを淡々と訂正するファウチ氏の姿は、いつしか「反トランプの真実の語り手」という像を帯びていった。この対比こそが、彼を一方では英雄に、他方では目の敵に仕立て上げたのだ。

 面白いのは、その後の展開である。トランプ大統領は退任間際、コロナワクチンの開発に貢献した功労者としてファウチ氏に大統領表彰を授けている。つまり一度は「勲章」を与えた相手なのだが、近ごろは一転して、「彼の助言に頼ったのはごく短い期間にすぎない」と、距離を置く発言を繰り返している。

 かつての盟友を、今や政権全体で追い詰める側に回った。そんな皮肉な構図を作り上げたのが、ファウチ氏の長年の宿敵だった。


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