2026年9月15日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年9月15日

中国側の動き

 その意味で今回の災害は、一義的には純然たる自然災害であり、中国に直接的な原因があったわけではない。また、中国側に被害が及んだことも、彼ら自身にはまったく想定外の事態であった。

 しかし、中国は事態の処理について、迅速かつ慎重に対応した。そこからは中央政府の最高レベルで、高度な警戒感をもって事態にあたることへの、明確な意志が伺える。

 災害の当日、事態発生から4時間ほどで、国営新華社系のネットニュースが報道を開始した。その数十分後には、習近平が「重要指示」を出した旨が報道された。

災害に対し、中国政府の情報統制はほとんどなかった(ロイター/アフロ)

 これは中央が、習近平の指導によって迅速に危機対応を行っていることを、民衆に印象付けるためのものであった。また、民間でもネットメディアを中心にニュースが拡散し、SNSでもギロン国境検問所が土石流に吞み込まれる映像などが拡散した。

 ただ、当初は検閲によると思われる削除などが発生したものの、全面的な情報統制・封鎖が行われなかった点は興味深い。これは中央と宣伝部門が、今回の災害はあくまでも自然由来であることに加えて、中国側は「巻き添え」となった形であることから、民心が反政府的感情を抱く契機にはならず、むしろ習近平の「指導力」を強調する機会になると判断したものと考えられる。このためネット上のデマへの取り締まりは進めつつ、「公的機関の権威ある発表」を基準にした宣伝報道が展開されている。

 27日午後には李強首相が陣頭指揮のため現地に入ったが、中国メディアは、李首相が「習主席の委任」を受けて救助活動を指導し、被災民を見舞ったと伝えている。その後は連日のように、捜索救助、避難民の保護、道路・通信網の復旧作業を報道し、党と国家の迅速な危機対応と指導力を強調している。また専門家を登場させ、今回の一件が純然たる自然災害であることを解説・強調することにも、力点が置かれている。

自然災害では済まされない、中国社会の因果律

 一方では、民心の動揺を招かないようにするためか、土石流の衝撃的な映像などは、中国メディアでは使用されていない。また、中国メディアは被害者たちの声を伝えることもない。

 それはこの地域が、政治的・社会的に敏感なチベットであることを考えれば、当然なのであろう。ただし、こうした中国の宣伝・報道姿勢は、諸外国からの疑念や非難を招きやすい。現に国際的には、批判的観点からの報道が多いことも事実である。

 これを意識してか、通常は外国メディアの立ち入りが厳しく規制されているチベットにあって、9月5・6日には中国側が許可・アレンジした外国メディア8社の取材団が、現地入りを許されている。中国外務省の報道官は、こうした自国の情報公開について、透明・迅速なものと強調している。ただし、これは当然ながら自由な取材などではなく、あくまでも中国が外国メディア、ひいて世界に対して「見せたい姿」でしかないことを、しっかりと留意する必要がある。

 このように自然災害に際しても、中国が神経を尖らせる一番の理由は、国内統治の安定性が、何にもまして求められるためである。歴史的にみて自然災害とは、時の権力者による治世の安寧や継続性への凶兆と捉えられてきた。

 言い換えれば、自然災害は民心の乱れとなって社会不安を助長し、ひいては権力者に対する不満や反抗へと転化してきた。中国共産党と中央政府にとっては、この歴史的な轍を踏むことを避けねばならない。


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