2026年9月15日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年9月15日

 近年の中国では自然災害が多発している。昨年はチベットでの大規模な地震、北京・河北省・甘粛省での豪雨災害、今年は重慶での山崩れ、甘粛省での水害、広西チワン族自治区での豪雨災害などが続発している。そして、今回のネパール国境沿いでの土石流災害である。

 これらは自然災害であり、人為的理由から被害が発生・拡大した直接的原因は見られない。だが中国という社会には、自然災害というだけでは済まされない因果律が内包されており、その圧力は、かの地を統べる権力者自身に、重くのしかかっているのである。

戦略的重要地域としてのネパール国境地帯

 今回の土石流災害における中国の対応について、もう一つ特徴的なことがある。それは発生元であるネパールへの姿勢である。

 中国は災害発生後、ネパールに支援物資と人員を送った。しかし、ネパールのシシル・カナル外相は、地元メディアとのインタビューで、自国の温暖化ガス排出はわずかであるにもかかわらず、地球規模の気候変動によって巨大な代償を支払わされているとして、温暖化ガス排出量の大きな中国、米国、インドに補償を求めると述べた。

 これに対して中国は、同国にしては珍しく、きわめて抑制的な反応を示している。中国外務省の報道官は、中国も被災国であることを前置きした上で、気候変動は世界的課題であり、ネパールを含む国際社会と協力して悪影響を予防・軽減したいと述べるにとどまった。

 この後、9月に入るとカナル外相は、駐ネパール中国大使との会談で、中国からの支援に謝意を示すと同時に、補償は中国などの特定国に求めるものではなく、国連気候変動枠組条約やパリ協定の枠組内で国際社会に求めるとして、従前の主張を和らげている。

 この背景には、中国とネパールの地政学的な関係がある。すなわち、中国にとってネパールは「一帯一路」上の重点ルートの一つであり、チベット自治区の経済開発を進める上でも大きな役割がある。加えて、それは単なる二国間の問題ではなく、中国とは微妙な関係にあるインドを牽制する上でも、重要な意味を持っている。

 このため中国は、今回の土石流で消滅したギロン国境検問所を、両国間交流の中心として建設して、2014年に運用を開始し、22年には国家レベルでの国境経済協力区に格上げするなど、力をいれてきた。

 こうした中で、ラサ・カトマンズ間の鉄道建設も計画されいる。そして、それらは30年の完成を目指し整備が進められている、中国の巨大環状道路「黄金大外環」(総延長約2万7000km)で、ベトナムとの国境にある港湾都市の東興からカザフスタンとの国境にあるカナスを結ぶルートと接続される。

 この大構想を実現させるには、ネパールとの友好協力関係が維持されねばならず、それは新たな発展機会を得られるネパールにも同様である。こうした大きな構図での利害を考えれば、むしろ今回の災害は、両国間をさらに緊密化させる、新たな契機に転じる可能性すらあるのではなかろうか。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る