「子どもは小さな大人ではない」──小児期から始まる先回り予防
心血管疾患の原因となる動脈硬化は長年にわたり血管に脂質が蓄積してできる病変(プラークと呼ばれる)で、「配管の錆(さび)」に例えられる。錆が一夜にしてできないのと同様に、動脈硬化も数十年におよぶ悪玉コレステロールへの曝露の結果として生じる。したがって、早期に介入して生涯のリスク軌跡そのものを変えることが重要視されている。
驚くべきことに、若年層の20〜25%は何らかの脂質異常を抱えていることがわかっている。このガイドラインでは「子どもは小さな大人ではない」という認識のもと、成人のリスク計算式を子どもにそのまま適用することを否定し、プラークの初期病変ができる前の、下記のような「先回りした」予防策を求めている。
・ 全小児スクリーニングの推奨: 9〜11歳におけるすべての小児に対する普遍的脂質スクリーニングが強く推奨されている。
・ 2歳からのハイリスクスクリーニング: 早期心血管疾患の家族歴や家族性高コレステロール血症(FH)が疑われる場合は、2歳からの個別スクリーニングが開始される。
・ 逆カスケードスクリーニング: 小児の遺伝子検査でFHを発見し、そこから親や兄弟などの高リスクな家族を特定するアプローチも推奨されている。
生活習慣の改善(適切な食事、運動、適正体重の維持、禁煙)を幼少期から継続することが、生涯にわたる心血管リスクの低減につながる。
リスク評価の革新
成人期のリスク評価においては、長年用いられてきた旧来のプール・コホート計算式(PCE)が廃止され、現代の300万人以上のデータベースに基づく新たなリスク計算ツール「PREVENT-ASCVD計算式」(以下、PREVENT)が導入された。
PREVENTは、心血管・腎・代謝(CKM)症候群の概念を統合し、腎機能、糖尿病代謝指標、さらには居住地域の環境といった「健康の社会的決定要因(SDOHまたはSDH)」まで考慮している。現代の管理水準を反映しているため、同一のリスク要因を持っていても、従来のPCEに比べてリスク推定値が40〜50%低く算出される特徴がある。
臨床現場で個別の治療戦略を立てるため、以下の4ステップからなる「CPRフレームワーク」が提唱されている。
① Calculate(計算): PREVENTを用いて10年間の心血管疾患(ASCVD)発症リスクを算出し、低リスク(3%未満)、境界域(3%以上5%未満)、中等度(5%以上10%未満)、高リスク(10%以上)に分類する。
② Personalize(個別化): 計算式に含まれない「リスク増悪因子」を加味する。特に女性においては、早期閉経(45歳未満)や妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産などの「生殖リスクマーカー」がリスク評価の重要な要素となる。
③ Reclassify(再分類): 治療開始の判断に迷う場合、男性40歳以上・女性45歳以上を対象に、心臓CTによる「冠動脈石灰化(CAC)スコア」を測定してリスクを再評価する。
④ Reassess / Decide(再評価と意思決定): 患者との話し合い(Shared Decision-Making)を通じて、薬物療法と生活習慣改善の最終方針を決定する。
このガイドラインでは、PREVENTによる心血管疾患発症リスク分類の妥当性を治療必要数(NNT; number needed to treat)で説明している。この文脈でNNTは「何人が薬を飲めば、1人の心血管疾患の発症を防げるか」という薬の「予防効果の効率」を表す。
境界域である「10年リスク3%」では中強度のスタチン(HGM-CoA還元酵素阻害薬)の服用によるNNTは100(100人が飲んで1人助かる)である。一方、中等度リスクである「10年リスク7%」で高強度スタチンを服用するとNNTが33(33人が飲んで1人助かる=100人が飲んで約3人助かる)となり、予防効果の効率がとても向上している。このことから、この分類がリスクとベネフィットを考慮しその厳密なバランスに基づいてリスクごとに妥当な介入を推奨している、と評価されている。
