その他、個別アプローチが必要な特定の患者層は下記の通りである。
・ 慢性腎臓病(CKD ステージ3以上): 心血管疾患を伴う場合、高強度スタチン等によりLDL-C 55 mg/dL未満を目指す。
・ HIV感染者: 40〜75歳の治療中の患者に対し、心血管イベント発症および冠動脈の動脈硬化進行を抑えるスタチン投与が推奨されている。
・ 妊娠・授乳期: 妊娠計画の1〜2カ月前または妊娠判明時にスタチンを中断するのが原則だが、重症高トリグリセリド血症で急性膵炎リスクが高い場合は、妊娠中期以降のフィブラート系薬剤や高用量オメガ3脂肪酸の投与が検討される。
私たちと社会が向き合う現実
今回のガイドライン改定は、予防医学の観点から理想的なビジョンを提示しているが、臨床現場や社会においてはいくつかの実務的課題が存在する。
・ 医療費とコストパフォーマンス: PCSK9阻害薬やベンペド酸などの新薬を長期にわたり多剤併用することによる医療費の増大は大きなジレンマだ。生涯にわたる臨床的ベネフィットと個人の経済的負担、社会保障費とのバランスを考慮する必要がある。
・ 多剤併用(ポリファーマシー)と耐容性: 薬の種類が増えることで、スタチン関連筋肉症状(SAMS)などの副作用リスクや患者自身が治療方法について理解する服薬アドヒアランスの低下が懸念される。
・ 健康の社会的決定要因と企業健康経営: 診察室での処方箋だけでは動脈硬化を完全には防げない。超加工食品の過剰摂取、不規則なシフトワークや労働ストレス、運動機会の不足などの環境因子への介入が不可欠になる。
今回の改定が示す「早期発見・長期的管理」の思想は、私たち自身の健康管理や、企業・職場における「健康経営」の戦略にも直結している。科学的エビデンス(知っていること)と実際の行動・社会制度(実行すること)の間にあるギャップ(Know-Do Gap)をいかに埋めていくかが、今後の医療界および社会全体の大きな挑戦となるだろう。
「脂質異常症だけでもこんなに社会へ広がる課題があるんですね」
「そうなんです。日本にも動脈硬化性疾患予防のガイドラインはありますが、ここまで徹底していません。今後どのように日本で受け入れられていくか楽しみです」
「息子にもなんかできることがありそうですね」
「もちろんです。健康の社会的決定要因を見出して『生涯を通じた取り組み』をするパートナーとして、プライマリ・ヘルス・ケアを専門とする看護師はとても大事な役割を持つようなると思います」
