2024年11月28日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年9月3日

(2)台湾に対しては、彼らが長らく要求してきたF-16(C/D)を66機売却することを認める。これはF-16そのものが中国のコストとなるというより、台湾を米国が実質的に支援することを明示するという点で十分な意味がある。台湾における「ひまわり運動」をより積極的に支援するという方法もあるだろう。

(3)同様に、香港における自由運動を支援することも、中国にコストを課し、その政策の再評価に繋がる可能性がある。

(4)米政府が発する公式声明において、北朝鮮問題がアジア太平洋地域の大きな脅威であり続けている主たる要因が、中国が北の体制支援を継続していることにある点をより強調する。これは、結果的に、東シナ海や南シナ海で拡張行動を続ける中国の立場を悪化させることとなる。

(5)アジア太平洋地域の米軍基地や米軍部隊を狙いとする中国の通常型弾道ミサイルに対し、強固な対応を示す。中国のミサイルは、米軍部隊や同盟国にとって直接の脅威になっている。米国は、通常型の多弾頭弾道ミサイルを米国本土に配備するか、攻撃潜水艦、ミサイル潜水艦に搭載し、地域に展開させることができる。これらのミサイルは、米軍部隊へミサイルを発射しようとする中国への即応戦力となる。これは、弾道ミサイル防衛のままならない中国にとって、米国のミサイルに備えるための莫大なコストを強いることにもなるはずである。

* * *

 ボブ・サターは、1968年から2001年まで、議会調査局、CIA、国務省、上院等に勤務し、東アジア問題について、著書200冊、論文200本、数百の政府報告書を書いた大ベテランです。サターには、右派、左派と言うようなイデオロギー的傾向の薄い人だという印象があったのですが、あるいは、公務奉職中は、役職柄、真意を表現することに慎重であったのかもしれません。この論説を読む限り、ベテランの保守正統派というべきであり、いささかも甘いところはありません。

 提案の(1)から(5)まで、サターの公職キャリアの大部分を占める冷戦時代の対ソ政策を彷彿とさせるものがあります。レアルポリティクスの観点から対中政策を見れば、当然の対策と言えるでしょう。特に、将来、豪州の潜水艦建造に日米両国が関与することになれば日米豪の潜水艦部隊による共同パトロールは、現実味のあるオプションになる可能性があります。

 こういう論文が堂々と発表されるということは、米国の評論界、ひいては、世論、議会の考え方が、中国に対して、冷戦的な現実主義に戻りつつあると、新しい傾向として捉えて良いのかもしれません。

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