新カリキュラムで教科書がつくられなかった「地学」
理科教育は、誰もが知るように、「物理」「化学」「生物」「地学」の4つに分類されている。この内、「地学」は、地震、火山、気象、宇宙、という、まさに私たちを取り巻く自然環境を理解するための科目だ。教科書では、地震、火山、台風等に伴う様々な自然災害の猛威や歴史、そして、それらが引き起こされるメカニズム等が本編で記載されているだけでなく、防災そのものをテーマにした章も設けられている。大津波も、豪雨の後の土石流も、何度も繰り返されており、必ず繰り返されるということを実感し、どうすれば少しでも被害を減らすことができるかを科学的に学ぶのが地学だ。
しかし、「地学」の空洞化は、今の高校三年生、つまり今度の大学入試から適用される、新しい学習指導要領(新カリキュラム)の出足から表面化した。
新カリでは、文系用の基礎的な内容を扱う科目として「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の4種類、理系用として「物理」「化学」「生物」「地学」の4種類の合計8種類の教科書が各出版社から発行される予定だった。しかし、新カリが適用される生徒が高校二年生になる平成25年時点でも、「地学」の教科書だけが、どの出版社からも発行されなかったのである。学校からのニーズがほとんどないことがわかっているために、出版社にとっては、収益が見込めないからだろう。
その結果、文部科学省は、急遽、「地学だけは、新カリキュラムの授業を行う際に、旧カリキュラムの教科書を使用することもやむなしとする。文科省で旧カリと新カリの対応表を追って作成する」という旨の通知を全国の教育委員会に出さざるを得ないような事態となったのである。
今年からはようやく二社が「地学」の教科書を出版したが、高校では、理系の大学等に進学する生徒たちは、「物理」「化学」「生物」の三科目から二科目を選択するのが当然にようになって久しい。つまり、理系の生徒は「地学」を学ばないのである。このことは、結果として、日本中の小中高の理科の先生の多くが、「地学」を学んでいない、だから、「地学」を教えられない、だから次の世代も地学を学ぶことができない、連鎖になってしまっている。これが、地学教育を空洞化させた負のスパイラルだ。
先日、ある防災に関する講演会で、この分野で著名な大学教授が、「日本では防災を教える科目がないから、マニュアル教育が必要だ」という旨の話をするのを聞き、愕然とした。彼もまた、「地学」を学ばず、「地学」の教科書を開く機会がなかったのだろう。空洞化のために、存在そのものが見えなくなっているかのようだ。