2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2014年9月1日

 混乱の背景には、「地球、月、太陽の位置関係」という地学の基本的な知識を本質的に理解している者が、都教委にほとんどいなかったのではないかと考えられる。中学生向けの都立高校の入試問題であり、地学を学んでいれば決して難しい問題ではない。しかし、地学を学んでいなければ、学識ある大人であるはずの都教委の関係者でさえも、この問題を理解するための前提の知識がなく、そもそも出題ミスの指摘の意味がわからなかったのではないか。

 そもそも、地学を専門とする理科の教員は少ない。そのために、出題をする側も限られた人材で行っている可能性があり、現場の地学を専門をする教員全員が指摘をしたとしても、都教委としては指摘数が他の科目の場合より少なく感じてしまうこともあるかもしれない。

 また、中学の理科の教員によるネット上の当初の声には、「出題ミスではないか」という指摘よりも、「この問題の答が、なぜそうなるのかを生徒にどう説明していいか分からない」という類のものが多く、中学の理科の教員であっても、地学を学んだ経験のない者には、地球、月、太陽、の基本的な位置関係の理解が非常に難しく感じられていることも想像できた事例だった。

文化系の生徒も一般教養としての
「地学基礎」が学べない

 理科は、新カリキュラム対応で初めての実施となる今年度(平成27年1月)の大学入試センター試験から、科目選択においても大きな変更がなされている。最も大きな変更は、これまで文系の生徒は、理科は1科目選択するだけでよかったが、基本的に、「基礎」の付いた科目を2科目選ぶ形になったことだ。このことで、これまで、文系の生徒は「生物」1科目だけを選択してセンター試験を受験をしていた生徒が多かったが、これからは、「生物基礎」と「地学基礎」の2科目を選択する生徒が増え、文系の生徒にとっても一般教養として欠かせない「地学」教育の普及につながるのではないか、と期待された。

 しかし、例えば、東京都の都立高校のホームページをいくつか見てみると、そこに掲載されているそれぞれの高校の教育課程表には、「地学」はもちろん、「地学基礎」さえ全く記載がない学校が少なくない。つまり、理系の生徒も文系の生徒も、「地学」も「地学基礎」も必修になっていないだけでなく、選択科目の中にも入っておらず、地学分野を全く学ぶことができないのである。このような高校では、文系の生徒も、センター試験では、理系の生徒が「地学」以外の3科目から2科目を選択するのと同じように、「地学基礎」以外の3科目から2科目を選択するように強いているのである。

 このように、関東大震災を経験し、豪雨や積雪にも弱いとされている大都市の東京都立高校でさえ、地学は空洞化に向かっているのだ。


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