実際、事業者が安全性向上評価の届け出を出した際に、規制委員会規則に定める方法に適合していないと認めるときは方法の変更命令が出せることになっている(上記条文第5項参照)。自主的取組みとはいえ、結果に対して一定の質(quality)を要求したり、各事業者の取組みが比較可能なものにするための方法論を標準化したりするためには、規制機関側からの監督、指示などのアクションが可能なように、一定の法規制が課せられていることも一概に非合理的だとは言えない。
ただ、現在の規制委員会と事業者間の関係に鑑みると、事業者側から自主的に安全対策の量的追加や新規のアイデア・技術を活かした質的追加を提案すると、規制委員会がそれを規制事項化してしまうのではないかとか、その新規・追加策に対して基準適合性の再審査を求められてしまうのではないかなどと疑心暗鬼になってしまいかねない。これでは自主的な取組みを行うインセンティブが働くどころか、こうした自主的な安全性向上評価は適当に処理しようとする逆インセンティブが働きかねない。確率論的リスク評価など、今後安全規制のあり方を左右する重要な手法について、こうした事態が生じてしまうと、所期の狙いが無に帰してしまう懸念もある。
こうしたことを考えると、両者間に現在のような対立的構造、相互不信が存在する間は少なくとも、確率論的リスク評価を含む自主的な取組みに関する評価結果やデータなどが直接的に規制要求事項化につながることはないという共通理解が必要であり、その旨を書面化した覚書を結ぶことや、よりフォーマルに法令改正によってその旨を担保することも検討すべきである。その際、米国での好事例も参照することが適切である。
こうした手当を前提に、事業者はこの制度を最大限活用し、自ら第一義的責任を負っているとの認識を示すチャンスと考え、それを果たす意思と能力を維持していくことが極めて重要である。
規制委員会、事業者双方が
安全向上のための努力を新たに
以上、4回にわたって規制委員会と事業者の不信の構造と、それを取り除くための両者が取組みのあり方について考えてきた。まとめて言えば、「原子力の安全規制は原子力発電所を安全に稼働させるために存在するものであり、停止・廃止するために存在するのではない。規制委員会と事業者が、一定の緊張関係の下、互いに敬意(respect)と信頼(trust)に基づいてコミュニケートすることによって共通目的である安全性の向上を達成していくためには、予見可能性のある安全規制活動を実現していくことが必要である」ということだ。
今後、九州電力川内原子力発電所の再稼働を皮切りに、全国で再稼働が続くことが見込まれる。こうした機会に規制委員会、事業者双方が安全向上のための努力を新たにしていってもらいたい。
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