中国メディアは何を報じているか

2014年11月14日

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佐々木智弘 (ささき・のりひろ)

防衛大学校人文社会科学群国際関係学科准教授

1994年慶應義塾大学大学院前期博士課程修了。日本貿易振興機構アジア経済研究所東アジア研究グループ長を経て、2014年2月から現職。共著に『習近平政権の中国』(アジア経済研究所)、『現代中国政治外交の原点』(慶應義塾大学出版会)。

 第1に、習主席と他5国要人のツーショット写真はそれぞれ背景に両国の国旗があるが、安倍首相とのツーショット写真の背景に両国の国旗はない。

 第2に、他5カ国要人とは「会見」を行ったとしているが、安倍首相とは中国語で「応約会見」と表記され、「申し出に応じて会見した」とされた。さらに安倍首相だけ「APEC首脳会談に出席した安倍首相」とわざわざ説明している。

 第3に、他5カ国要人との会見には、中央政治局委員の王滬寧と栗戦書、国務委員の楊潔篪が同席しているが、安倍首相との会見には楊潔篪しか同席していない。

ホスト国として実現せざるを得なかったという
体へのこだわり

 中国は、APEC首脳会議での日中首脳会談を特別なものとして扱おうとした。国旗を掲げず、安倍首相側からの申し出に習主席が応じたものであり、実務担当の楊国務委員しか同席させない。『人民日報』をはじめとする公式メディアは日中首脳会議を儀礼的会談にすぎないものかのように報じた。習近平はAPEC首脳会議のホスト国として日中首脳会談を開いたにすぎないという体を貫いた。

 4つの原則共通認識を作成しなければならなかったのも、この体を貫くための中国側の苦肉の策であるように思われる。4つの原則共通認識は、第2番目で歴史認識問題、とりわけ安倍首相が靖国神社参拝をしないと約束したから、第3番目で日本が尖閣問題をめぐる領有権問題の存在を認めたから首脳会談に応じたのだと中国側が言えるための措置である。その意味で4つの原則共通認識は中国にとってより必要なものだったと言える。

 それはこれまで応じなかった安倍首相との会談に応じたことで、国内世論、そして習近平の政敵に批判されないための予防線を張るためである。それほどまでに日中関係は中国で国内政治と直結している。周永康問題にケリをつけ、党内での権威づけに成功した習近平にとってさえも、日中首脳会談の開催はリスキーなものだった。

 習近平は日中首脳会談で「村山談話」に言及した。これは4つの原則共通認識の合意を越えた発言のように思われる。また習近平は尖閣問題を示唆する言及はせず、代わりに日本の安全保障政策に注文をつけている。日中間の懸案事項は尖閣問題よりも、むしろ歴史認識問題や安全保障問題であることを示唆している。

 中国側はAPEC首脳会議のホスト国として日中首脳会談を開いたにすぎないという体をとっている。長らく途絶えていた日中首脳会談開催のタイミングはAPEC首脳会議しかないと中国は考えていただろう。しかし、これがホスト国だからなのか。それとも日中首脳会談を開かなければならなかった真の理由があるのか。

 中国の経済状況の悪化により日本との経済交流への期待からなど色々な憶測は出ているが、説得力のある説明は見当たらない。実は、その点を理解しなければ、中国の今後の出方を見極めることはできない。習近平の発言からは、日中間だけの理由ではなく、米国を含めた外交戦略上や安全保障上の観点からその意図をくみ取らなければならないように思われる。しかし、会談は終わったばかりで、中国の真の意図を知るためにもうしばらく時間が必要だ。

[特集]日中首脳会談

  
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