――6月19日(2009年)、日本経済新聞出版社から『気持ちよく働く ちょっとした極意』を出版されました。なぜ、いまこの時期に、この本を書いたのですか?
(日本経済新聞社出版社)
(金児) 現在の経済危機は、私自身もこれまで味わったことのない、大・大・大不況です。底打ちなんて言われていますが、これまでものすごく落ち込んでいたのが、やっと下がり方が緩やかになったというだけで、これまでの落ち込みのモノスゴさを考えれば、悪いことに変わりはありません。
それに、誰も言いたがりませんが、私はこの先2番底、3番底となって、大不況が長く続くこともありうる、いやそうなることを前提にしたほうがいいと思っています。私は9歳のとき終戦を迎え、それはいまでももっとも忘れられない体験ですが、あのときは、日本国中、平等に大貧乏だった。いまは豊かになったかもしれないが、不平等感は終戦直後よりも強まっていると思います。
そういう厳しい、大変な時代を生きる現役の方々を元気づけたい。若い人たちに危ない橋を渡らせたくない。私がこれまで生きてきた体験から、何か伝えられることはないだろうかと思って書いたのが『気持ちよく働く ちょっとした極意』です。私のような平凡な人間が、会社員として長く、楽しく生きていくための誰でもできる小さな心がけを、現場の様々なエピソードとともに綴りました。すべて、私の実体験に基づいた体験知識(empirical knowledge)であり、空想は一切ありません。
――この本の帯には大きく「できすぎる先輩のマネはしない」と書かれています。こういう生き方、働き方を提示する本としては、とても珍しい言葉に見えます。
(金児) 帯には、「できすぎる先輩のマネはしない」、「自分を一番かわいがる」、「ない知恵は絞らない」の3つの言葉が書かれていますが、この3つは、私がサラリーマン人生を38年間たたき上げてきて、もっとも大事だと思っていることです。そんなに珍しいですか?
「こうしなさい」という本は疲れてしまう
――ふつう、「生き方」「働き方」の本といえば、「こうしなさい」「こうすべき」というスタイルですよね。実際、金児さんのこの本が平積みされている書店の棚には、その手の自己啓発本がいくつも並べてありますよ。
(金児) 「こうしなさい」という本は、多くの人にとっては読むと疲れてしまうと思うのです。私なら疲れてしまいます。「こうしなさい」というのは、自分を大きく見せて、自分はこれだけのことをやってきたのだから、あなたもマネしなさい、ということです。私はそんなふうに威張れる人間じゃないし、威張りたくない。