以上が令計画の一件の背後にある権力闘争の一部始終であるが、戦端が開かれたら、この戦いはどのような結末を迎えるのか。おそらく習主席が破れる確率の方が高いと思われる。軍をほぼ完全に掌握して政治局にも大きな勢力を占める共青団派の実力は侮れるものではない。共青団派若手ホープの汪洋氏が公然と習主席に盾突くような行動に出るのには当然、それなりの覚悟と勝算があるはずであろう。
しかも就任以来、あまりにも苛烈な腐敗摘発運動を推進した習主席に対して、党内の一般幹部の間でも反発の気運が高まっているから、党内の多くは共青団派支持に傾く可能性も十分にある。したがって、共青団派に対する「最後の戦い」で習主席が敗北してしまう公算が大であろう。ひょっとしたら、令計画の摘発というルビコン川を渡った習主席はすでに、墓穴を掘り始めたのかも知れない。2015年からは、共産党中枢部で展開されている熾烈な権力闘争はいよいよ「佳境」を迎えるであろう。
権力闘争が加速させる中国経済の崩壊
習近平政権にとっての「墓穴」は実は政治だけでなく、経済でも同様である。2014年10月1日に掲載した私のコラムでは、中国で不動産経営者の夜逃げラッシュが起きている実態をレポートしたが、実はその後、夜逃げラッシュは不動産業界に限らずすべての経済領域に広がってきているのである。
たとえば10月から11月にかけて全国で起きた夜逃げ事件の数々を拾ってみれば以下のようになっている。
10月22日と24日、広東省中山市にある照明器具企業の華亮灯飾公司と喜林灯飾公司の両方の経営者が相次いで夜逃げした。華亮灯飾公司の場合、踏み倒された借金は7000万元に上る。
23日、陝西省大茘県にある金紫陽公司経営者の呉江鵬氏は数億元の借金を踏み倒して夜逃げした。
25日、山東省即墨市の某アパレル企業の経営者は従業員の未支払い給料45万元を踏み倒して夜逃げした。
11月5日、雲南省羅平県では、東方不動産開発公司の経営者が夜逃げしたが、彼が手がけた「金桐花苑」という県の「重点開発プロジェクト」は工事の途中である。
13日、中国中古車市場の第一ブランドと称される「易車匯」の経営者が夜逃げし、全国に点在する数多くの店舗が一斉に閉鎖された。
同13日、河南省鄭州市物流大手・東捷物流の経営者が夜逃げ、公司に商品を供給している数百軒の企業は売掛金の回収が出来なくなった。
そして14日、大連市では前代未聞の「夜逃げ事件」が起きた。中之傑物流と邁田スーパーという2つの会社の経営者が同時に夜逃げしたが、この2人は実は夫婦なのである。