2024年4月23日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年12月26日

政権の対米戦略と相容れない発言内容

 汪洋氏のこの発言は中国国内でほとんど報道されることなく、「上海春秋戦略研究院」という民間研究機関の開設する「観察者網」というサイトで一部紹介されただけだった。しかし中国現在の政治状況を熟知している者であれば、それは実に大胆不敵な衝撃発言であることがすぐに分かる。

 というのも、習近平主席が就任以来一貫して唱えている対外戦略及び対米外交戦略の基本は、決して「アメリカの指導的地位とアメリカ主導の秩序を尊重する」ようなものではなく、むしろアメリカの指導的地位に対する「挑戦」を強く意識したものだからだ。習主席の提唱する「米中新型大国関係」は、要するに中国が大国としてアメリカと対等に渡り合うことを前提にしたものであり、習主席の唱える「アジアの新安全観」はさらに露骨に、アジアの安全保障への関与からアメリカを排除しようとするものである。

 つまり前述の汪洋氏発言は明らかに、習主席の対米戦略方針から大きく逸脱しており、むしろ正反対の立場となっている。一副首相の彼が公の場で国家主席の基本方針と正反対の見解を示したことは、中国の政治文化においては国家主席の権威に対する反乱であり、いわば「謀反」に近いものである。つまり胡錦濤派の重要幹部の汪洋氏は公然と、習主席に反旗を翻して挑戦状を叩き付けたのである。

 この文脈からすれば、汪洋発言が行われたわずか4日後の22日、習近平が突如令計画に対する取り調べ開始を発表したことは、まさに胡錦濤派の売った喧嘩に対する習主席の反撃だと理解すべきであろう。これによって、習近平国家主席と、胡錦濤前主席及び胡氏の率いる共青団派との権力闘争の幕が切って落とされたのである。

 2014年7月30日に掲載した私の論考『習近平の腐敗撲滅運動は「権力闘争」 、裏で糸引く胡錦濤の「復讐」と「野望」』では、腐敗摘発運動で習主席と胡錦濤派が連携して共通の敵である江沢民派の一掃を図った経緯を記した後、今後の行方については以下のように予測している。「運動の目的が一旦達成されて江沢民派の残党が葬り去られて現役の江沢民派幹部も無力化されてしまう、つまり共通の敵が消えてしまうと、次なる権力闘争はむしろ胡錦濤前主席と習主席との間で、すなわち共青団派と太子党との間で展開されていくはずである」と。

 今となってみれば、事態の展開はまさに私の予測する通りのものとなった。江沢民派大幹部の周永康氏の党籍剥奪からわずか数カ月たらずで、習主席はその「腐敗摘発」の矛先を胡錦濤前主席の率いる共青団派に向けてきたのである。


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