チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年1月9日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 広い防空識別圏内の飛行体を探知するためには、まず強力な監視能力が必要である。中国は、2014年11月の珠海航空ショーにおいてKJ-2000を外国メディアに公開したが、それは、自らの空中監視能力を誇示したかったからだろう。しかし、中国の現有装備で東シナ海防空識別圏を有効に監視することはできない。中国は、今後とも、レーダー・サイトや空中警戒管制機の整備を進めることになる。

「中国には、アテネのような好戦的な遺伝子はない」

 こうした中国の軍事力増強の動機は自国の安全保障であり、アジアにおける米国の軍事プレゼンスに大きく関係している。ただ、中国の安全保障は、単に現状を守ることに止まらない。中国は台頭しつつある大国なのだ。ここに、対中関係の難しさがある。

 台頭する大国と既存の大国との間の相互不信と、それに基づく相互過剰反応が軍事衝突を引き起こす状況は、古くはギリシャ時代から見られるものである。「ツキディデスの罠」とも呼ばれる、新興大国アテネと既存の大国スパルタを中心とする両陣営の戦争に至る経緯がそれだ。

 実際、習近平主席は、2014年1月に、「日中関係は、『ツキディデスの罠』に陥ってはならない」と述べている。日本をスパルタ、中国をアテネになぞらえたものだ。その上で、「中国には、アテネのような好戦的な遺伝子はない」と述べている。

 しかし、中国は経済発展を止めることはできない。所得分配の不平等さを示すジニ係数を見れば、中国の経済格差は既に危険水域をはるかに超えている。それでも、既得権益を完全に破壊できない以上、国内の富の再分配は限定的である。低所得者の所得を向上させるためには、中国の経済規模を拡大しなければならないのだ。

 中国政府系シンクタンクの研究者は、「『中国の夢』とは、歴代王朝と同等の経済規模を回復することだ」と言う。そして、「同等の規模」とは、世界のGDPの四分の一を占めることだと言うのである。

 問題は、世界経済の発展速度が中国経済の発展速度にはるかに及ばないことだ。中国が自らの夢を追求することは、他国の経済規模を侵食することにもつながる。米国を始めとする既存勢力は、これを許さないだろう。米国が、中国の軍事的意図に対する警戒を解くこともない。

 一方の中国は、中国の発展を妨げようとする米国に対抗する必要を感じている。中国の安全保障は、その発展をも保障するものでなければならないのだ。中国の理想は、中国の発展を妨害する米国の軍事的影響力を、地域から排除することだろう。

 米中両大国が過去の戦略的対立を基調とした大国関係とは異なった関係を築けるかどうかは、極めて難しい問題である。日中両国が歴史認識の問題を克服して相互信頼を築くこともまた難しい問題だ。しかし、軍事衝突は避けなければならない。難題であっても、各国は相互不信を克服する努力を継続する必要がある。

  
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