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2015年2月17日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 また、クチマの後段の発言からは、ウクライナ側が親露派を交渉相手としてほとんど信用しておらず、独仏露との交渉こそを本丸と見なしていたことも窺える。

 合意文書調印後、ロシアのプーチン大統領は、親露派との直接対話を拒むウクライナ側の姿勢が協議を長引かせたと非難したが、ウクライナ側にしてみれば親露派武装勢力などといくら対話しても彼らに停戦の意図が無い限りは無駄であり、域外大国を引き込むことこそ重要であると見なしていたのだろう。

 また、協議中の報道によると、一度は「ノルマンディー4」がまとめた合意を親露派武装勢力が拒否したと伝えられていたが、クチマの発言によると親露派武装勢力の拒否にあっても「ノルマンディー4」側は合意内容を大きく変えることはしなかったようだ。

 今回の停戦合意では重火器の撤退ラインが親露派有利となり、占領地域の自治が認められたことを以て親露派にかなり譲歩した内容とも見られていたが、こうなると、これらの条件は親露派が持ち出したものというより、「ノルマンディー4」でプーチン大統領が独仏ウクライナに認めさせたギリギリの妥協ラインだったとも考えられる。

停戦は発効したものの……

 一方、唯一の変更点として停戦開始時期が16時間遅らせられたということは、親露派武装勢力側としてはこれが譲れない一線であったのだろう。おそらくはこの期間に支配地域を少しでも広げて停戦後の立場を優位にしようとしたものと見られ、実際、停戦後も親露派武装勢力が激しい戦闘を繰り広げたことはこの観測を裏付ける。

 また、停戦合意後の戦闘期間にもロシアは軍事援助を継続していたとされることから、ロシア側もこのような思惑を認めることで停戦に関する彼らの不満をなだめようという意図があったのではないだろうか。

 問題は今後だが、合意文書で定められた15日0:00を以て戦闘は一応、小康状態になっているとされる。

 ただ、停戦前から激戦地となっていた要衝デバリツェヴォについては依然として戦闘が続いているようだ。同地は親露派武装勢力が占拠している地域であり、出て行かないウクライナ軍のほうが悪いという理屈だが、昨年9月の停戦合意後もドネツク空港を巡って同じような理屈で戦闘が継続し、やがて停戦はなし崩しに崩壊していった。

 クチマの言う域外大国の関与がこのような二の舞を防ぐのかどうか、注目されるところである。

  
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