「ひととき」特別企画

2015年4月2日

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 「空海が抜群に優れた美意識をもっていたから、空海の後もいいものが作られ続けたのでしょう」

 そしてふと、西山さんは静さんに疑問を投げかけた。

 「壇上伽藍の根本大塔(こんぽんだいとう)の内部にある立体曼荼羅のなかで、空海は何をしようとしていたのでしょうか」

空海の思想を受け継ぐ壇上伽藍

根本大塔外観。空海が高野山開創の際に建立した多宝塔で、一山の中心となる根本道場。空海は、胎蔵界の大日如来を安置する根本大塔と、金剛界の大日如来を安置する西塔により、両界曼荼羅の世界を具現化する伽藍を構想していたが完成を見ぬまま入定し、後に甥の真然が完成させた。その後、幾度も焼失したが、昭和12年(1937)に現在の大塔が落慶。16丈(約48.5メートル)の高さを誇る

 霊宝館を辞したその足で、向かいの壇上伽藍を訪ねる。まもなく再建なる中門を眺めながら、目指すは根本大塔。堂々たる16丈(約48.5メートル)の多宝塔は、多くの参詣客で賑わっているが、もともとは人を寄せつけない修行空間だった。きらびやかな塔内を仰ぎ、西山さんは瞑想するかのように押し黙っている。立体曼荼羅について、西山さんの質問に「立体曼荼羅は、仏の世界に抱かれてしまう、という空海の即身成仏の思想の体現です。ここに入り、密教の呪文ともいえる真言を唱え、即仏、即自分、の修行をしたわけです」と答えた静さんの言葉を、反芻しているのだろうか。

 西山さんの目線を追ってみるが、うまく理解が追いつかない。即仏、即自分。生きながら修行により仏になる、密教の「即身成仏」思想。本尊の大日如来を四体の仏が囲み、さらに16本の柱には16大菩薩の絵図。金と朱色の色彩に、眩惑(げんわく)される。一歩外に出れば冬景色というのに、ここは別世界だ。

 根本大塔の西にある植栽は、空海ゆかりの「三鈷の松」。留学生として唐に渡り、2年を経て帰国する際の港から、空海は師である恵果阿闍梨(けいかあじゃり)より授かった、密教継承の証である法具・三鈷杵(さんこしょ)を、祈りを込めて投げた。「密教を広めるにふさわしい地に飛ぶように」と。 帰国後、探し求めたところ、高野山のこの松に三鈷杵は掛かっていたという。狩場・丹生両明神とはまた別の、開創伝説である。

空海が唐から投げた三鈷杵が掛かっていた伝説の「三鈷の松」は、幾度かの被災を越え今も聖木として奉られている。葉が3本の落葉を持ち帰るとご利益があるという

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