これを裏付けるのが、最近、北陸地方をまわっていて耳に挟んだ、この皮肉交じりのエピソードだ。
「農家で若い嫁さんは、JA共済から県民共済に乗り換える傾向があるみたい。これも協同組合利用になるのかな」
競争に背を向けてきた農協商法が、一般の利用客に受け入れられるとは思えない。とくに気がかりは萬歳会長の言動だ。農林中央金庫会長も兼務しながら、農協への監査法人による外部監査の導入に反対したことは、一般利用客に「農協は大丈夫か」との不信感を抱かせたはずだ。メガバンクに匹敵する資金を保有する農林中金の会長職として、失格と言わざるを得ない。
農協は、経済事業で赤字を出し、金融事業の黒字でカバーしてきた。その事業構造も、信用の伸び悩み、共済の落ち込みで完全に行き詰まってきている。准組合員をアテにしたガソリンスタンド、自動車販売、エーコープと呼ぶスーパー、葬祭業などを扱う利用事業も、多くが不振だ。これまた皮肉なことに、そのエーコープ店舗が大手コンビニチェーンの店舗に衣替えするケースがいくつも起きている。すべて競争に背を向けてきた農協商法の行き詰まりを反映したものである。
農協改革のベストアンサーは、赤字を垂れ流す経済事業と、かろうじて黒字の金融事業を分けることだった。その金融事業も異種金融業態、メガバンク、ゆうちょ銀行、地方銀行などとの統合という方向も想定した準備をしておくことだった。
それが今回の改革ではスルーされた。そのツケは、すべて競争に背を向け、改革を妨害してきた農協組織が負うことになる。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。
【特集】滅びゆく農協 岩盤規制と農業の行方
・PART 1 弱体化する農協 離れ出した農家
・PART 2 60年ぶりに農協改革の実態
・PART 3 改革の本丸「准組合員問題」の真相
・PART 4「脱農化」した農協に必要な更なる本質的な改革
農村票を武器に戦後最大の圧力団体といわれてきた農協に改革のメスが入った。政治の介入を拒み続けてきた農協に何があったのか。巨大組織・農協の実態に迫る─。