2024年4月20日(土)

あの負けがあってこそ

2015年4月2日

 ならば今回の藤崎選手のような高い意識の持ち主でない場合はどうなるのだろうと素朴な疑問が湧いてくる。曖昧な目的意識しかない場合や、上手く言語化できない選手の場合はどういったアプローチを図るのだろうか。

 「朱里さんの場合はリオ五輪があって、アジア予選があって、その前にチームの状態や自分の現状をスケジュールまで含めたうえで、その過程を鮮明にイメージすることができるのですが、目標がぼやけている選手には、もっと手前にあるオリンピックのフィールドに立っているイメージに誘導してみます。そこに連動させるためテレビで見た五輪のシーンを一緒にイメージしてみたり、たとえば秩父宮ラグビー場に立ったことがあれば、あの芝の感触を味わいながらプレーしている妄想に浸ったり、五感全てを使ってイメージングしてもらいます。それが『自分の最高の瞬間だ』と感じられたときに初めて、本当の目標とリオが繋がっていきます」

 「そこに立てば、そこに出場すれば、こんなに感動があるんだとコーチが誘導して、“自分自身の最高の瞬間“を味わえているイメージの世界に没頭してもらいます」

 本稿冒頭にあるような「いま隣には誰がいて、どんな景色が広がっていて、どんな風が吹いているか、足に伝わる芝の感触はどんな感じか」などがそれである。

 そこから日本代表、アジア予選、オリンピックと連動させていく。もちろん簡単に出来ることではない。

 また、自分の思いを上手く言語化できない選手の場合は、「ミラーリング」という手法を用いる。選手が上手く表現できずにいる様子を感じたら、コーチが苦しんでいる選手と同じような動作や言語を、あたかも自分のものであるように取り込んでみることによって、全てではないにしろ繋がる感覚が生まれ、読み取りと言語化するサポートができると語る。

 飯嶋はこれまでスポーツ分野よりもビジネス分野でのコーチングが多かった。しかし、自分自身が何のためにスポーツをするのか悩み抜いた時期があり、燃え尽き症候群に陥ってしまった過去を持つため、同じように苦しむアスリートの役に立ちたいという思いからスポーツ分野に応用するようになった。

 「僕らメンタルコーチは競技力・本番発揮力を向上させることの他に、アスリートそれぞれの最高の目標を達成するためのサポートをすることが仕事です」と言うように、飯嶋は黒子に徹しアスリートの夢を支える。


<飯嶋英樹氏 プロフィール>
1968年生まれ、神奈川県出身。目黒高校・拓殖大学で7年間、体育会ラグビー部に所属。国体選抜、リーグ戦選抜遠征メンバー等活躍したが、燃え尽き症候群により社会人チームからのオファーを全て断り、一般社会人に戻りクラブチームへ。
クラブチーム時代に国体メンバーのキャプテンに選抜され本選出場。プレーヤーとしても現役にこだわる46歳。
外資系コンサルティング会社にて、企業倫理と自分軸のズレを感じ始めたときに株式会社チームフローのメンタルコーチングと出会い師事。その後自分軸にしたがって独立を決意。現在、No.1メンタルコーチング代表。アスリートメンタルコーチ。メンタルスキル指導とは一線を画す『メンタルコーチング』の手法を用いてアスリートを中心にメンタル、コミュニケーション、チームビルディングのプロフェッショナルコーチとして活躍中。成果や目的論に強くこだわったサポートを自分軸・価値観としている。

  
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