「いま隣には誰がいて、周りはどんな景色が広がっていますか」
「そこにはどんな風が吹いいますか」
「足に伝わる芝の感触はどんな感じですか」
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「過去に自分が体験して嬉しかったこと、達成して感動したことをポストイットに書き出します。もう一つは達成できなかったこと、悔しかったこと、嫌だったことを書きだします。それらを時系列に床に貼りつけていきます。それも生まれてから現在に至るまで」
「そこを歩きながら振り返って、その時に何が起きたのか、どんな感情だったのかを選手一人ひとりが時間を掛けてやっていきます。その当時に戻ると苦しかったことや、喜びで感動したことなど、様々な感情によって泣きだす選手がいます」
こうして選手の心の奥底に眠っている、もしくは一番大切に仕舞われているものを探り出し、モチベーションの源泉となっているものを選手とコーチがシェアをしながら、ゴールまでの目標設定に取り組んでいくとメンタルコーチの飯嶋英樹は語る。
今回の『あの負けがあってこそ』は、競技者そのものではなく、競技者を精神面から支えるメンタルコーチに焦点を当てる取材を試みた。
プロ野球、Jリーグ、ラグビートップリーグ、各種のオリンピック出場選手などのコーチング経験は豊富だが、選手と向き合い、共に過去の出来事を深く振り返る作業を行うため、大半の選手とは守秘義務契約が結ばれている。
したがって選手名はもちろん具体的なコーチング事例をご紹介することはできないが、幸いにして今回はコーチングの現場に立ち合い、アスリートのお名前まで公表する許可を得ることができた。具体的内容に触れられないのは前述の通りだが、それでもメンタルコーチがいかなる仕事であるか、その一端でもご理解いただけるよう努力したい。