いよいよ核心へ
アジア予選に向けた選手個人としての目標設定
しかし、あくまでも筆者の受けた印象だが、時間の経過とともに、藤崎が主体的に話をすることが多くなり、飯嶋はその一つひとつに共感しつつ言葉を整理していくという流れになった。
言い換えれば向かい合うようにして行われていた対話から、同じゴールに向かって歩調を合わせるようなスタンスに変わったということである。
その辺りから、アジア予選に向けた選手個人としての目標設定という核心に入っていく。
「現在は1月。オリンピックのアジア予選を10月と想定し、そこから逆算して目標設定をしていきましょう。予選のスケジュールから見て日本代表のメンバーが最終的に決まるのが、夏のこの辺り(ホワイトボードを指して)と仮定しましょうか」
「現在日本代表は年間200日以上活動しているので、チームとしてかなりまとまっていると考えられますが、予選出場の最終メンバーに入って、ある程度影響力のある状態になるためにはどれくらいのタイミングをイメージしていますか?」
「6~7月です」
と藤崎が答えると飯嶋は質問を重ねていく。
藤崎の答えには触れないが飯嶋の質問をいくつかピックアップしてみたい。
「それでは6月までとしましょう。その段階で日本代表から外せないレベルのスキルとか、フィットネスとか、朱里さん個人的としてはその時点でどうなっていたいですか?」
「もう少し具体的に聞きますが、何がどこまで必要か。朱里さんとしてはどう考えますか、たとえば100m○○秒速くなるとか、1000m走を○○秒速くなるとか、具体的にあげてみてください」
「パワーアップとフィットネス(スピードかつスタミナ)のバランスを取りながら、マルチステージシャトルラン(有酸素性能力をみるテスト)を○○○回。その目標が最大のポイントということですね。このマルチ○○○回を手に入れれば代表復帰に繋がり、リオにも繋がる。そう考えてマルチ○○○回は外せないということで、この目標が出てきたと考えていいですね。でも、マルチ○○○回だけで良いのかといえばそうではない。バランスが肝心だと考えています」
「さらに聞きますが、体重を落とすことなくパワーアップして、マルチ○○○回を手に入れた時にどんなことが起こりますか?」
「確かに凄いでしょうね(笑)。それではパワーとフィットネスの両方を手に入れ、具体的に朱里さんが試合や練習で発揮しているイメージは持てていますか」
「なるほど、そこの理解が朱里さんの高いモチベーションに繋がっているということでしょうね」
「それではもう少し深掘りしてみましょう。高いフィットネスに支えられたスキルを習得し、見える世界が変わってきたと思うのですが、そのシーンは具体的に日本代表の試合ですか、それともラガール7の試合ですか……」
飯嶋の質問だけをいくつかピックアップしてみたが、それは藤崎の思考を整理するためのものであり、飯嶋が選手と思いを共有していくプロセスでもある。そのうえでゴールに導くための目標設定を探り出すという作業が丁寧に時間を掛けて行われた。