2024年11月21日(木)

対談

2015年4月10日

久松:費用を内部化するということですよね。公共経済学の教科書の第1章に出てくるような問題ですもんね。

丸山:たとえば名古屋市ではゴミの分別ルールがものすごく厳しいんですよ。プラスチックの包装容器でもリサイクルマークのあるなしで回収方法が違ったり、スーパーや区役所でしか回収しない「拠点回収」品目も多い。で、これを守れない人を「意識が低い」と責めるのは、なんだか違和感がありますね(笑)。

久松:つい「しゃらくせえ」と言ってしまいそうになる素直な感覚を大事に生きていきたいですね(笑)。

丸山:社会のために環境保全をやりたいわけじゃない、むしろエコは嫌いなんだけど、やっていることはエコロジカルな農家がいる。これはすごく大事なんだ、と学生に言いたくて、久松さんに講義に来てもらったんですよね。

 僕の知り合いに省エネオタクがいるんだけど、彼は地球温暖化にも資源枯渇にも無関係に、快楽として省エネに命をかけているんです。「月の電気代がついに1000円切りました!」とか連絡してくるから、だったら電力会社との契約を切ればいいのにと思うんだけど(笑)、その彼が最後にやったのが冷蔵庫の省エネだったんです。夜間は冷凍庫に保冷剤を入れておいて、昼間は保冷剤を冷蔵庫に移してコンセントを抜く。つまり電気代の節約として目に見える「省エネ」が楽しいというだけなんだけど、そういう無責任なモチベーションの集積の副作用として、環境問題が解決されてしまうのが理想なんですよね。目先の利害関心に沿って行動して、それが長期的な環境保全と整合する。なし崩し的に環境保全型社会に変わっていく。長く時間のかかる話で、我々が生きている間には答えが出ないんだけど、そのひとつのわかりやすい例として「エコが嫌いな有機農家」はありだなと思ったんですよね。

第4回へ続く

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は最新刊の『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

丸山康司(まるやま・やすし)
名古屋大学大学院環境学研究科教授。専門は環境社会学、環境倫理、科学技術社会論。環境保全に伴う利害の齟齬や合意形成に関する研究テーマに関わっている。最新の著書は『再生可能エネルギーの社会化 社会的受容から問いなおす』(有斐閣)、共著多数。

取材協力:オークビレッジ柏の葉
都市に暮らす人たちに「食と農」のつながりを実感できる場所を提供するというコンセプトのもと、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅の目の前という立地で、体験型貸農園とレストランを展開。農園ウエディングやカルチャー教室から企業研修まで、開催されるイベントは多岐にわたる。農園のすぐ横で季節感に富んだ食材を楽しめるバーベキューも好評。
http://www.ov-k.jp

  
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