2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年4月14日

 従って、論ずるべきは、米国の「卓越国」としての地位が終焉に向かっているかどうかである。世界の先行きは不透明なので、この設問に一義的に答えることはできない。中国のような新興パワー、国境をまたぐ様々な力、そして非国家的な主体の台頭は、大きな変化を告げるものかもしれない。しかし少なくとも今世紀前半は、米国は「卓越国」であり続け、世界のバランス・ゲームにおいて主要な役割を果たし続けるであろう。

 一言で言えば、米国の卓越性は終わっていないが、かなりの変化がこれから生じようとしている。それらの変化が世界の安全と繁栄に資するものであるかどうかは、まだわからない、と論じています。

出典:Joseph S. Nye,‘American Hegemony or American Primacy?’(Project Syndicate, March 9, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/american-hegemony-  military-superiority-by-joseph-s--nye-2015-03

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ナイは、「ソフト・パワー」や「スマート・パワー」など、良かれ悪しかれ、便利な新語を作ることに長けています。この論説では「卓越国」なる概念を示して、米国のパワーの位置づけについて分析しています。ナイはこれまで、中国の台頭にもかかわらず米国の優越性は揺るがないとの論調を張ってきましたが、その背景となる理論を精緻化したものと言えるでしょう。ナイは、ややもすると言葉遊びに堕することもありますが、ここでの分析には概ね賛成できます。

 米国の力保持にプラスとして作用する要素としては、人口増、経済面でのイノベーションを生む力、運用面を含む軍事的卓越、(中国は個々の兵器を誇示するが、それらの運用面では米国に全く劣る)、中国が賃金上昇により輸出競争力を喪失するなど経済伸び悩み傾向を示していること、が挙げられます。

 逆に、マイナスとして作用する要素としては、ドル紙幣の過剰によるバブルの発生と崩壊の繰り返し、内政・外交を麻痺させつつある党派対立の激化、オバマ大統領の権威低下、人種問題先鋭化の様相、著しい所得格差、が挙げられるでしょう。

 日本にとっては、そのような米国とどうつきあっていくか、どう協力していくかが重要な問題です。相対的に力が落ち内部は混乱しているとしても、雇用の増大等、米国経済の回復は顕著です。そして米国という協力相手なしに日本がその安全と繁栄を守ることは困難です。

 これからの時代には、こちらからも米国を支える「能動的な対米協力」、つまり、こちらから問題点を指摘し、それを解決するための日本の負担分も提示することがますます必要になってくるでしょう。同盟関係において「能動的な対米協力」を進めていくべきことはもちろんですが、政府レベルで触れるべきでない米国内問題(例えば格差問題)について、民間レベルで建設的な提言やコメントを発することも、日米関係の厚みを増すのに有益でしょう。

  
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