2022年12月4日(日)

Wedge REPORT

2015年4月28日

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勝川俊雄 (かつかわ・としお)

東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

危機的状況にも関わらず
産卵場の巻き網操業は「無規制」

 現在は、水産庁が、漁獲量を制限するための制度を急ピッチで整備している。はじめて漁獲上限が導入されたことの意義は大きいのだが、残念なことに、資源に甚大な影響を与える産卵場の巻き網操業は無規制のままだ。水産庁は、「クロマグロの新規加入は水温で決まるので、親を保護する必要はない」として、今後も産卵場の規制をしない方針を示している。

 産卵場で操業をしている巻き網業界は、11年から自主的に漁獲枠を設定し、資源管理に取り組む姿勢をアピールしている。しかし、漁獲量が一番多かった時期を基準に、境港で2000トンという過剰な漁獲枠を設定しているので、資源を保護する効果は皆無である。むしろ、自らの漁獲の権利を主張するために漁獲枠を設定しているようなものだ。

 クロマグロ未成魚は、日本中の小規模漁業者が多種多様な漁法で利用している。それに対して、クロマグロ産卵群を漁獲しているのは、少数の水産大手企業の巻き網漁船のみだ。普通の国は、大規模な漁業から規制をしていくのだが、日本は規模が大きな漁業を放置して、小さな漁業から規制しようとしている。これでは、コストや時間がかかるばかりで、実効性は期待できない。

 産卵期のクロマグロの水揚げ金額は15億円程度であり、大手企業の売り上げに占めるシェアは微々たるものだ。他の魚が獲れない夏枯れの時期に、船を遊ばせておくのがもったいないから、クロマグロ産卵群を獲っているに過ぎない。クロマグロの資源問題は世界的にも関心が高く、産卵群を獲り尽くした企業の国際的な評価は暴落するだろう。絶滅危惧種の産卵場操業から撤退して、企業イメージを守った方が、中長期的な利益につながるはずだ。

 水産資源の乱獲と公害は同じような構図がある。個々の経営体が短期的な利益を追求すれば、長期的な全体の利益が損なわれる。経済利益の追求が、環境や生物資源を損なわないように規制をするのは公的機関の役目である。産卵場で操業している企業にしてみれば「我々は違法なことはやっていない」ということになるだろう。絶滅危惧種を産卵場で一網打尽にするのは尊敬できる行為ではないが、こういった漁業を規制しない国の姿勢にこそ問題があるのだ。

 すでに危機的な水準にあるクロマグロの産卵群を救うには、政治主導で漁獲にブレーキをかける必要がある。日本は6847の離島に囲まれている島国である。多くの離島の基幹産業は漁業だ。排他的経済水域を確保するための基点となっている離島の生活を守ることは、日本の領海を守ることに直結する。

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