ただでさえ競い合っている選手は当時の日本代表を中心とした候補選手たちなのである。いかに森が学生選手権の優勝メンバーとはいえ、経験の差はあったはずだ。
森自身「このままでは終われない」という強い思いが、プレッシャーを大きくしてしまったのかもしれない。
「『いっしょに学生日本一なろう。いっしょに日本代表になって世界一になろう』と約束した親友は、合格して、私は落ちてしまったのです」
「その瞬間は目の前が真っ暗になってしまって、三日三晩泣き続けました。こんなに頑張ってきたのに選ばれないなんて、自分が可哀そうだし、悲しいし、悔しいし、どうすることもできずにとにかく泣き続けました。いま思うととても恥ずかしいのですが、自分にしか矢印が向いていなかったのです」
泣いて、泣いて、泣き続けて、どん底まで落ち込んだときに森はハッとした。
「いつまで私はこれを続けるつもりなの?」
そして冷静になれた瞬間、
「いま彼女はどう思っているのかな」
とはじめて矢印が自分から他者へと向かった。
「そう思ったら親友にすごく悪いことをしていると気づいたのです。4年間いっしょにやってきて、日本代表になろうと頑張ってきたのに私が落ちてしまった……。その親友の気持ちに思いが至ったときに、彼女に辛い思いをさせているのは自分じゃないか。申し訳ないと思いました。私は自分のことしか考えていなかった。ここから再出発しようと決めました。これがきっかけで、私の視野が広がりました」
カナダ留学で感じた「日本人の強み」
森は入社したばかりの出版社に辞表を提出した。音楽関連の本を制作する会社だったため、土日の出勤が多くアルティメットとの両立はできないと判断したからだ。編集長には「日本代表になって世界一になりたいから」と退職理由を伝えた。その結果8月までは勤務することになり、誰もいない早朝から出勤し、定時に退社するという毎日を送った。平日はジムで個人トレーニング、週に1度はグラウンドを借りて仲間と練習をした。
この年、社会人クラブチーム「MUD」を設立し、その翌年には、世界一強い国のプレーが知りたいとカナダに渡った。