2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月21日

 台湾は、限られた資金を、中国が支配する、機構と利益の不明確なAIIBに投ずるべきか、それとも、日米によるアジ開銀のような成熟した多国間開発メカニズムに投ずるべきか。答えは自明であろう、と指摘しています。

出典:蘇紫雲‘Rejecting the AIIB is a no-brainer’(Taipei Times, April 14, 2015)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2015/04/14/2003615870/1

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 AIIBの設立にあたって参加国メンバーにはどのような資格、条件が必要か、という点はいまだ極めて不透明です。台湾の場合はその典型的な例です。

 台湾の馬英九政権は3月の締切日の直前に、創始国メンバーとなる意図があることを中国側の準備委員会に内報し、それに対し、中国側は台湾を創始国メンバーとは認めず、いずれ「適当な名称」による参加を検討したいと回答したと公表されています。

 他のメンバー国は、複雑な台湾の参加資格などの問題に関わりたくないのでしょう。中国が独断で一方的に決めたことに対し、異論をさしはさむ様子はありません。こうした状況は、今日のAIIBの設立に当たり、如何にその決定過程やメカニズムが曖昧かつ不透明であるかを如実に示すものとなりました。

 本論評は、AIIBの参加について、台湾が得られる利益は「出資額に比し、ごくごく限られている」として慎重であるべきである、と述べており、その通りなのですが、今後の焦点は、参加の際の名称としてオリンピックやAPECで使用されているのと同一の名称を用いるかどうかの問題に移っていく可能性があります。

 本論評は、中国がAIIBを設立する狙いを「鉄道拡張戦略」と結び付けています。しかし、中国の鉄道建設技術は、かつてメキシコ政府が中国の落札した鉄道建設を取り消したことが示すように、世界のレベルから見てそれほど高いものではありません。それよりも、今回のAIIB設立は、中国にとっては、アジアおよび周辺地域における勢力拡張、さらには、急速に減速する中国経済の結果から生じる過剰生産力を中国企業に利用させることにあるのではないかと推測されます。

 今後、新たにAIIBという国際金融機関が設立されても、ADB(アジア開発銀行)から多額の融資を受けてきた中国自身がどのようにこの借金を返還・処理するか、設立後のAIIBの「格付け」が国際的に見て如何なるものとなるか、などによって同銀行の運営能力はより具体的に試されることとなるでしょう。

 日本としては、米国と緊密に連絡を取りつつ、少なくとも当面、事態の進展を静観することが適当と思われます。

  
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