Q 他の旅行業者から提携の誘いはなかったのか?
高橋 そういう話をいただくことは少なくありませんでした。でも、担当者と話をしていくうちに、どうしても方向性に違いが出てきます。僕たちは、旅行という商品を扱っていますが、基本は「eコマース」です。
先ほどもスピードの話をしましたが、楽天は既存の旅行会社さんと比べると、圧倒的に早い。eコマースの国内最大の事業者ということもあり、提携する意義を大きいと判断しました。
Q シンガポールに本社を移してみて感じること
高橋 とてもオーガナイズされているというのが実感です。Voyaginがシンガポールに会社をつくるのも半日で作業が終わりました。税金が安いというのも噂通りです。
また、シンガポール政府は、VC(ベンチャーキャピタル)を上手く使っていると思います。VCにお金を渡して収益をあげることが目的ではなく、VCという、いわばスタートアップを目利きするプロにお金を託して、有望な企業が次々にシンガポールに育っていくというエコシステムを構築しようとしています。
VCをやっている人はやはり、中華系が多いです。でも、もう半分は、インド系とシリコンバレー系です。実力のあるVCが集まってきているという印象ですね。
Q 先月、リークアンユー公共政策大学院で「アジア学」という1週間の講座を受けてきたと。その感想は?
高橋 まずは、産業・雇用政策などシンガポールの発展史。そして、アジアの国々の動静を中心に学びました。例えば「イスカンダル計画」という名のもと、都市開発が進められているマレーシアのジョホールバル、シンガポールの対岸にある町です。日本でも投資家から注目を集め、移住先の候補としても人気が高いのですが、実態はなかなか難しい。なぜなら……、といった話。
全体としては、アジアのビッグピクチャーをつかむという意味でとても良い経験になりました。
一方でシンガポールが抱える課題についても知ることができました。豊かになるために猛烈に働いてきた世代と、もう豊かになったのだから「そんなに頑張らなくてもいい」という世代間のギャップです。シンガポールでは、小学生の段階から成績によって進路が振り分けられます。実力がある人には天国ですが、そうでない人にはある意味、地獄です。こうした効率重視の仕組みに対して、若い世代を中心に不満が高まっています。
つまり、日本と同じ問題を抱えているのです。出生率が低く、高齢化が進んでいるというのも日本と同じです。そのため外国から人を入れるということになりますが、狭い国土の中で人口過剰も大きな問題になっています。
もっとも強く感じさせられたことは、アジア市場で成功することは簡単ではないということです。シンガポールもそうですし、アジア各国のビジネス界で大きなプレゼンスを持つのが華僑です。彼らの人的リソース、資金力にはとてもかないません。それでも諦めるのではなく「では、そのなかで何をすることができるのか? できることを最大限やってみよう」と、いまは考えています。
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