身近なテーマに疑問を持つ
同校の看板ともいえる「探究」の授業を見せてもらった。訪問した日は2年生後期に行っている課題研究を仕上げて論文にまとめる「JUMP」の授業だった。教室にお邪魔して10数人の生徒に研究の動機などを質問してみた。視察者が多く質問慣れしているせいか、どの生徒もハキハキと説明してくれる。
人文科学、物理、化学、生物、数学など分野によってゼミに分かれ、それぞれの教室には生徒が数人、担当教員のほか京大大学院生らがアシスタントとして専門的なアドバイス役をする。しかし決して正解は教えない。あくまで生徒主体で解決方法を見つけるようにする。
紙飛行機を最も遠くに飛ばすためには重心をどこに置くのが最適で、そのためにはどのように紙を折ればよいか。逆立ちが成功するときと失敗するときの蹴る足の速度など計測して、成功の原因は何なのかを突き止める。塩分を吸収する力が強いといわれているカイワレ大根を栽培して、塩分吸収度合いの強い作物を見つけて、塩害に苦しんでいる東日本大震災の被災地の農業に役立てたい、といった割と身近なテーマが多いのかと思いきや、金星の謎に挑戦する生徒もいた。
金星にある大気は金星の自転速度よりもはるかに速いスピードで回転しているため「スーパーローテーション」と言われ、専門家の間でも以前から大きな議論になっている。これに興味を持った生徒は、この「スーパーローテーション」を実験室で何とか再現してみたいと、アシスタントと真剣な顔つきで話し合っていた。
理科系のテーマには実験設備が必要になるが、申請すれば数万円の計測機器なら購入してもらえるそうで、二酸化炭素の濃度を計測する機器を使って計測をしていた。説明を受けたテーマのうち、知識不足からついていけないものもあったが、高校生なりに研究テーマに真剣に向き合っている姿が印象的だった。
生徒に任せる
同校は文化祭、父兄に対する学校説明会、「探究」授業の進行・運営などをすべて生徒に任せている。もちろん、最終的なチェックは教師が行うが、あくまでも主体は生徒。失敗してもいいから任せて、そこから何かを学んでほしいというのが基本方針。その最たる例が、生徒全員が参加する海外研修だ。米国(2コース)、欧州、オーストラリア、マレーシアの5つのコースに分かれて10日間研修するが、学校が用意するのは、飛行機、宿泊場所と、安全の「半分」だけ。
研修場所や研修内容は生徒にすべて委ねられており、驚くべきは旅行業者との交渉も生徒が行う。生徒に任せることで主体性企画運営能力と自己管理能力を育てることにつながるとみている。担当になった生徒は、そのコースに人気がなくて人が集まらないことがないよう必死でアレンジしようとする。
「探究」授業を総合学習の中に既に取り入れている大阪府河内長野市の私立清教学園中・高等学校の森野章二副校長が同校を視察して最も驚いたのが、この海外研修での生徒中心の運営だった。「国内では生徒に任せることも可能だが、海外研修ではいろいろなリスクを考えるとそこまでは踏み切れない」と話す。
堀川高校を視察した学校の数はトータルでは千校を超えているという。視察した学校にその印象を聞いてみた。
静岡市にある私立の中高一貫校の静岡聖光学院の米村大輔教諭は「カリキュラムの中に『探究』の科目を組み込むのは、個人的にはできると思うが本校で取り入れるのは難しい。一番大きな問題は生徒と教員の意識だろう。何のためにやるかでコンセンサスを得なければならない。学校説明会を生徒にやらせるなど、自主性を養うための多くの取り組みをしているのが印象的だった」という。
堀川高校に教師を派遣することを決めた高知県教委高等学校課の高野和幸課長補佐は「高知県立西高校が『食』をテーマにした地域活動をすることでSGHの指定を初めて受けたので、堀川高校の『探究』型の学習方法を取り入れたいとの思いから教師を派遣することにした。SGHの課題研究のノウハウなどを学んでもらい、西高校がプロトタイプになって県内のほかの高校にも広めていきたい。 高知県は子供の数の減少が他県よりも多く厳しい状況になっている。小さい学校だが教育の質を保証するため打って出ることにした」と話し、学校行政の責任者として必死さが伝わってくる。
一見、受験と関係ない「探究」することが受験を乗り越えられる学力の形成につながるはずだ、との堀川高校の仮説が証明できるかどうか、またこうした取組が全国、とりわけ進学校に広がるかどうか、注目していきたい。
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