2022年10月1日(土)

Wedge REPORT

2015年8月12日

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石井孝明 (いしい・たかあき)

経済・環境ジャーナリスト

慶大経卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャル・ジャパン副編集長を経て現在、フリーで執筆活動を続ける。アゴラ研究所の運営するエネルギー情報サイト「GERP」の編集も担う。

10万ページの申請書類

 福島原発事故の反省から、原子力規制委員会は2012年9月に発足。政治の介入を受けない「独立行政委員会」となった。そして規制をめぐる約180もの法改正、政令、省令、規則の改正を行った。これらは総称「新規制基準」と呼ばれ、従来規定になかった重大事故や天災への対応などの規制も整備された。

川内原発では覆水タンクなどを竜巻から守るため金属製のネット(中央左の格子状の建物)が設置された

 新基準に基づく審査は遅れ、混乱している。規制委の田中俊一委員長は、「審査は原子炉1基、半年で終わる」と当初述べたが、2年経過して終わったのは1基のみ。法令上は稼働しながら審査することが原則だが、規制委は法的根拠のないまま、基準に合格した原子炉から再稼動を認めると表明した。

 再稼動の遅れで電力各社の経営は悪化し、電力料金は2~3割上昇した。震災以降、火力発電の燃料代は14年度で余分に約4兆円かかったと推計される。また10電力の新基準の対応費用は推計2兆5000億円だ。一連の巨額負担によって得られる安全と支出のバランスを、負担者である私たち電力消費者は検討する必要がある。

 審査の状況も、おかしさを感じるものだ。「事業者と私たちは対等ではない。こちらの決定を受け止めるべきだ」。規制庁の定年間際のノンキャリアの管理官(課長補佐クラス)が、記者説明で感情的に吐き捨てた。活断層をめぐり、事業者の反論を受けた後の言葉だ。

 「人員も予算も限りがある。審査を続けられない」。規制部長がこう述べて、「もっと話を聞き、慎重に判断してほしい」と要請する事業者との会合を打ち切る場面が頻繁にある。許認可権を持つ当局側がコミュニケーションを拒否し自分の意見を押しつける。上から下まで規制庁には、奇妙な「お上意識」があるようだ。

 日本の官僚機構の宿痾(しゅくあ)は、書類好きの形式主義とされる。規制委・規制庁も同じだ。事業者が規制委に提出する書類は正式なもので8~10万ページになる。扱う書類はその数倍になり、それを各社社員がトラックを連ね運ぶ。規制庁の役人は書式の間違い、誤字脱字があると、書き直しを求める。どの会社でも社員が総出で、書類の読み直しをしている。

 書類は電子化すればいいし、他国ではそうだが、日本は紙にこだわる。「書類で原子炉が安全になるとは思えない。ばかばかしくなる」と、ある電力会社の社員はつぶやいた。

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