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Wedge REPORT

2015年9月17日

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勝川俊雄 (かつかわ・としお)

東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

求められる国家戦略の再構築

日本の親魚は漁獲制限が2010年~12年の平均漁獲量を上回る (出所)各種資料をもとに作成
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 クロマグロの産卵場漁獲への懸念は降って湧いたものではない。10年に学術雑誌Natureは、「太平洋クロマグロの個体数は安定しており、高い漁獲率でも資源に悪影響はない」とするISCと、「産卵場での漁獲が続けば資源の枯渇を招く」という私の見解の相違をニュースとして取り上げている。同じ記事の中で、台湾の研究者は、「個体数は年々減少しつつあり、直ちに管理措置を講じなければ深刻な事態の前兆が現れるだろう」とコメントしている。こういった声に真摯に耳を傾けていれば、今頃、クロマグロは絶滅危惧種にはなっていなかっただろう。

 クロマグロに依存している小規模漁業は危機的な状況に追い込まれている。山口県の見島のマグロ一本釣り漁業は消滅し、壱岐や対馬の一本釣り漁業も窮地に追い込まれている。漁業は離島の基幹産業であるばかりでなく、領海を監視する役割を果たしてきた。日本のEEZを守ってきた離島漁業の衰退は、国防上も大きな問題である。

 産卵期の巻き網操業は、経済的に見ても問題が多い。産卵期のクロマグロは脂が抜けていて価値が低い。満足な冷凍設備がない巻き網船で漁獲するので、相場が安くても生で出荷せざるを得ない。脂の抜けたマグロを一度に水揚げするために、相場は暴落する。冬場には1キロ1万円を超えることも珍しくないクロマグロが、産卵場の巻き網だとその10分の1の値段しかつかない。

 戦後の日本漁業は、食料難を解決するために、食料増産に国を挙げて取り組んできた。目先の漁獲量を増やすことが全てに優先され、地域経済、国防、海洋生態系の健全性、観光など、水産資源のもつ多面的な価値が損なわれている。内閣府、経済産業省、防衛省、環境省、国土交通省などを交えて、国益の観点から水産資源をどの様に利用すべきか議論をして、国家戦略を再構築する必要がある。

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◆Wedge2015年9月号より

 

 


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