2023年2月6日(月)

Wedge REPORT

2015年9月17日

»著者プロフィール
著者
閉じる

勝川俊雄 (かつかわ・としお)

東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

 C)クロマグロ幼魚の新規加入は親魚の資源量とは無関係に変動する

海洋環境が原因とは思えないクロマグロの新規加入減少 (出所)ISCレポート等をもとに作成
拡大画像表示

 水産庁は、クロマグロは親と子の数に明瞭な相関関係が見られないので、親を残しても子は増えないと主張している。相関関係が無いから、因果関係が無いと断定することはできない。様々な誤差が含まれる漁獲データの解析では、本当は因果関係があったとしても、統計学的に有意な相関を見いだせないケースが多いからだ。

 太平洋のマグロ類は、東側では全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)により、西側では中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)により管理されている。両者が、親魚量の回復を管理目標としていることからも、親魚の維持が重要であるという国際的なコンセンサスがあることは自明である。水産庁自身も、WCPFCでは親魚量を歴史的中間値まで回復させるべきと主張している。海外では「親魚を回復すべき」と主張しながら、国内では「親魚は減っても問題ない」と開き直るのは、自己矛盾である。

 d)親魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている

 水産庁は、親魚の漁獲を規制しない理由として「科学者が様々なシナリオで計算した結果、幼魚削減シナリオのみで資源の回復が確認された」ということを常々述べてきた。ISCが検討したシナリオは、たったの7種類。未成魚の漁獲削減は15%から50%まで様々な段階を検討しているが、親魚については、規制無し、もしくは、15%削減しか検討していない。最初から未成魚の削減ありきの偏ったシナリオ選択をして、親魚の削減についてはそもそも検討していないのだから、親魚の削減によって資源が回復したという結果が得られないのは当然である。

 WCPFCでは、日本の強い希望でWCPFC本会議とは独立した北小委員会という小規模な組織でクロマグロの資源管理の議論をしている。国際会議では、公平性の観点から、議事進行に強い権限を持つ議長を関係各国で持ち回りにするのが通常である。北小委員会の座長は、日本(水産庁)が独占している。北小委員会に対して、日本は強い影響力を持っているのだ。

 水産庁は、北小委員会のみならずISCにも強い影響力を持っている。ISCは、北小委員会の指示で科学的な分析を行う組織であり、ISCの主要なメンバーは日本の水産総合研究センターの研究者である。長年、北小委員会の議長を務めた元水産庁次長の宮原正典氏が、現在は水産総合研究センターの理事長を務めていることからも、両者の緊密な関係は明らかだろう。

 北小委員会およびISCは、日本寄りの提案を続けてきた。親魚の削減シナリオを除外しておくことは、巻き網で親魚を大量に獲っている唯一の国である日本に好都合である。また、日本の漁獲シェアが高かった02~04年の漁獲量を基準に漁獲上限を設定したので、最近年(10~12年の平均)と比較すると、日本はたった6%の削減だが、メキシコは49%、韓国は70%の大幅削減になる。韓国とメキシコは猛反発をしたが、水産庁は、日本企業への輸入自粛指導をちらつかせて、大幅な漁獲削減を呑ませたのである。

 日本国内でも、未成魚の漁獲量は最近年から35%削減だが、親魚の漁獲量は3305トンから4882トンへと48%も増加している。幼魚の漁獲圧削減が必要なことは、筆者としても異論は無い。しかし、親魚を集中漁獲する特定の漁業だけが得をするような現在の規制のあり方には賛同できない。幼魚を主体に漁獲をする国内の小規模漁業者からは、「親魚も同様に規制をすべきだ」という不満の声が上がっている。

 今後、日本主導の意図的な科学に基づく規制に対する国際的な風当たりが強まってくるのは間違いない。今年7月のIATTC年次会合で、米国は、日本よりも高い親魚水準を回復目標として、親魚の漁獲半減を含む様々なシナリオを分析した上で、太平洋の東西で共通の枠組みで規制を行う提案をしたが、日本が合意せず、採択されなかった。大幅な漁獲削減を行ったメキシコは、幼魚の加入が激減していることを憂慮し、来年はさらに250トン自主的に漁獲量を削減することを表明した。世界が9月のWCPFCでの日本の対応に注目している。日本が対応を誤れば、ワシントン条約での規制が現実味を帯びてくるだろう。


新着記事

»もっと見る