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Wedge REPORT

2015年9月17日

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勝川俊雄 (かつかわ・としお)

東京海洋大学准教授

1995年東京大学農学部水産学科卒。97年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2002年同大学大学院農学生命科学研究科博士号取得(論文博士)。三重大学生物資源学部准教授等を経て15年4月より現職。

 a)日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微

 山陰旋網(まさあみ)漁業協同組合は、自主規制によって産卵場での親魚の漁獲上限を設定している(2011~14年は2000トン、15年は1800トン)。科学者が推定した03~12年の親魚量の平均は、約34000トンであり、2000トンの自主規制枠一杯まで漁獲をしても、親魚全体の6%に過ぎない。これを根拠に、水産庁は「産卵場の漁業の影響はほとんど無い」と主張している。

 漁獲によって失われるのは、その年の産卵だけでは無い。その先の生涯の産卵機会が全て失われる。日本海産卵場の漁獲の主体である3歳の親魚を1トン漁獲すると、その先に卵を産むはずだった親魚が17トン失われる計算になる。再生産への影響をその年の産卵だけで評価するという水産庁の考え方は、根本的に間違っている。

 産卵場の巻き網漁業の長期的な影響を評価するために、この漁業がなかった場合の親魚量を試算して、現状との比較をおこなった(下図参照)。現状の親魚資源量(青線)は、03年から12年の間に半減した。日本海産卵場の巻き網操業が無かったシナリオ(黄線)では、親魚の減少幅は半分以下に緩和され、親魚量は現在の回復目標水準である歴史的中間値と近い水準になった。産卵場の巻き網操業が無ければ、未成魚の漁獲半減といった急激な規制は不要であったことがわかる。この試算では、獲らなかった魚が生き残るところまでしか考慮していない。実際には、生き残った魚が卵を産み、それが未来の加入増加につながっていくので、親魚量はこの試算以上に増えていたはずだ。

日本海沖産卵場での巻き網操業がなければ、現在の回復目標値に近い水準となっていた (注)ISCレポート等をもとに作成
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 b)クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因

 魚の卵の生き残りは水温や海流など海洋環境の影響で変動をするのは事実である。しかし、近年のクロマグロの幼魚の加入減少が海洋環境の影響であるという科学的根拠は見当たらない。加入の減少について、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)のクロマグロワーキンググループ座長である鈴木治郎氏(水産総合研究センター)は、「加入の減少に対する明確な説明はないが、次回の資源評価での重要な課題である」と述べている。ISCは加入減少の原因を特定していないのだ。

 卵の生残率の指標として、親魚1キロあたり何個体の幼魚が新規加入したかを計算してみると、04年以降の卵の生残率は、長期的な平均値よりも良い値となる。これは、海洋環境がクロマグロにとって良好であることを示唆している。クロマグロの卵の生き残りに最も強く影響する産卵場周辺の水温は、好適な条件が続いている。


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