2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月25日

 中国当局の影響の及ぼし方は様々である。学者は、研究のためにビザが欲しければ、中国についての言論には慎重でなければならないし、報道機関は、報道が当局の機嫌を損ねれば、アクセスや広告収入を失い得る。

 もっと狡猾なのは、中国国外の中国人の管理である。ウイグル人ジャーナリストで、米国市民であるShohret Hoshur氏は、ラジオフリーアジアを通じて、新疆における漢民族とウイグル族の対立を報じてきた。その結果、彼の家族は何年にもわたって脅迫されており、兄弟のうち1人は服役中、他の2人は国家機密漏洩の容疑で裁判にかけられている。

 米その他の国にいる多くの弁護士、ジャーナリスト、反体制派らが、中国の政策に反対するたびにリスクを冒し、家族を危険にさらしている。彼らの滞在国は、「狐狩り作戦」のような秘密の作戦だけでなく、中国国内と同じように言論の自由を弾圧しようとするあらゆる中国の取り組みを非難すべきである。独裁体制による弾圧がより自由な社会にまで達しているとき、それに対して何をすべきかは自由な国々の義務である、と主張しています。

出典:‘China’s international efforts to silence free speech’(Washington Post, August 21, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/chinas-overreach/2015/08/21/4dce4278-4516-11e5-8ab4-c73967a143d3_story.html

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 最近、中国政府は米国在住の中国人移住者の取り締まりを強化していますが、その動きはすでに「腐敗撲滅キャンペーン」の枠を超えて、中国国内の権力闘争の延長ともいうべき様相を呈しつつあります。その意味を、上記ニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙の記事は論じています。

 米国内における中国人移住者(実質的には「亡命者」に近い人たち)の取り締まりの焦点となっているのは、令計画(前弁公庁主任)の実弟・令完成です。令完成は一時、カリフォルニアの豪邸に住んでいたとされます。

 最近中国で逮捕された令計画は、胡錦濤前総書記の大番頭ともいうべき人物です。巷間伝えられるところによれば、実弟・令完成は兄の意を受け、二万数千点の秘密文書を米国に持ち出したとされています。習近平体制が執拗に令完成を中国に送還することを意図しているのを見れば、習近平のグループと胡錦濤のグループの間の対立・確執がいかに熾烈であるか、容易に想像できます。

 一時は、中央規律委員会主任の王岐山(政治局常務委員)自身が米国を訪問し、令完成をはじめとする在米中国人移住者の送還のために米国と直接交渉する構えであると伝えられましたが、その線は立ち消えになったようです。

 今日の中国政府は、国境を越えて、弁護士、ジャーナリスト、反体制派等に対する「抑圧」と人権侵害を行っています。そのような行為は非難されるべきである、とワシントン・ポスト紙が述べているのは、もっともなことです。

 9月下旬に予定されている習近平の訪米は、最近の中国経済の悪化とそれに対する処置ぶりに加え、本件の在米「亡命者」の取扱い問題の複雑性から見て、難問山積の中で行われることとなりそうです。

  
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