セントジョージ・ビーチをあるけば
『中国系カナダ女子の就活』
アテネの少女たちと別れてから白砂青松を絵にかいたようなセントジョージ・ビーチを散歩した。欧米人が水泳を楽しんでいる。一人の金髪碧眼の女性が泳ぎ終わって浅瀬を砂浜に向かって背筋を伸ばして堂々歩いてくる。みるとトップレスである。中天の太陽のやわらかな日差しが優しくバストを包んでいる。“ビーナスの誕生”そのものである。
さらにビーチを歩いてゆくと少し前方に東洋系のほっそりとした女性が裸足で波打際を歩いているのに気づいた。おしゃべりしながら一緒に散歩したが何か物思いしている様子。
彼女は中国系カナダ人でありバンクーバーに母親と二人で住んでいる学生であった。彼女の両親は彼女が生まれる前に中国からカナダに移住したが、技術者で共産党員であった父親はカナダでの生活になじめず彼女が子供のころ一人で中国に帰ってしまった。生活に余裕はなかったが母親が働いて一人で彼女を育てたという。そういう事情で残念ながら中国語はほとんど話せないと恥ずかしそうに言った。
「もしお時間があるなら浜辺のカフェテリアで何か飲みませんか」と慎ましやかに尋ねてきたので「Why not?」と即答。カフェテリアで私はビール、彼女はラムコークを注文。パラソルの日陰で海からのそよ風が心地よい。「It’s so nice sea breeze!」と初めて小さく微笑んだ。彼女は自分の将来について悩んでおり何かを見つけるためにギリシアに来たようであった。
「サラリーがよいのでインターンとしてエネルギー関係の会社で働いているのですが、どうも会社の雰囲気になじめなくて」
「それじゃあ、どんな仕事を希望しているの」
「社会福祉関係の仕事が自分には向いているような気がするのでその方面の仕事を探そうかと思っているんですけど。どうも確信が持てなくて」
私は自身のサラリーマン時代を振り返った。なにが自分にふさわしい仕事なのか。自分は何をやりたいのか。何度も何度も思い悩んだ。目先のタスクが上手くゆかないと“この仕事は自分に向いていないのではないか”と深刻に落ち込んだものだ。
「どのような仕事が自分に適しているのかを見極めるのはとても難しいと思う。だけど私の経験から一つだけ言えることがある。今現在の仕事に一定期間全力で取り組んでみること。そうすると必ず自分の得手不得手が見えてくる。そして自分の能力を客観的に評価できるようになる。同時に自分が何をやりたいかが明確になり、何ができるか判断できるようになる。そうすれば自信を持って自分の進路を決断できるよ」
彼女は小さく頷いた。陽が西に傾いてきた。