2024年11月22日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2015年10月25日

オリンピアの遺跡。中央が陸上グランドで左右が観客席

 翌朝、選挙事務所の前を通りかかるとひっそりとしている。40代半ばくらいの女性が後片付けをしていた。彼女は事務所の責任者とのことで、新興左派政党の候補者は僅差で落選したと。ギリシアの一般大衆は対EU債務問題についてどう考えているか尋ねると熱弁が噴出:

 「EUの債務は真面目に働いている民衆には無関係なのよ。銀行が金持のために借金したのだから国民には返済義務はないわ」

 「お金はギリシア国家として借り入れたものであり最終的には国民が税金から返済するしか方法がない。国民ひとりひとりが返済の義務を負っていると認識すべき」

 「それは間違っている。そもそも政府が借り入れたお金は国民には無関係で大企業や銀行を儲けさせるために使われたのよ。銀行や大企業が返済すべきである」

 「政府が借り入れたお金は公務員の給与や国民の年金、さらには失業保険や健康保険などの社会福祉事業に投入されたと理解する。国民がそれだけ余分にベネフィットを享受したのだから返済の義務がある」

 「国民は何も受け取っていないわ。さらに重い負担を強いられることに国民は憤慨している。たとえデフォールトしても、責任は金持、銀行、大企業にある」

 「デフォールトして国際的信用を失えばギリシア経済は破綻する。困るのは国民だ」

 「銀行や大企業は今まで儲けて隠している利益を民衆に還元することで民衆の生活が安定して経済は良くなる。こんな単純なことが理解できないのですか?」

 どうも議論が平行線であり彼女自身が経済の仕組みを理解していないようなので議論を断念して雑談に切りかえた。彼女はウクライナの出身で英語の語彙や話し方から相当のインテリと思われる。ギリシア人の旦那と結婚してギリシアに移住して10年近くになる模様。間違った政治を正すために、金持や銀行や大企業から民衆への大規模所得移転を綱領に掲げる新興左派政党を支援しているよし。

 この所得移転による問題解決のスローガンは単純で一般大衆の受けがいい。資本家、大企業、銀行が労働者階級を搾取しているという古典的スローガンを聞いて、私は50年前の小学校時代を思い出した。真面目で正義感に溢れた日教組の活動家である若手教師から毎日のように聞かされたスローガンである。

 スポーツマンで明るく子供たちや父兄に絶大な人気がある教師が語る呪文のようなスローガンは当時の日本ではさほど違和感なく受容されていたように思う。しかし経済的に豊かになり有権者の政治意識が高くなるにつれて日本社会ではそうしたスローガンは次第に死語となっていったのではないか。

 私はこうした稚拙なスローガンを堂々と掲げている政党がいまだに存在することに唖然とした。ギリシアの債務問題のニュースを見るたびに、このウクライナ出身の女性を思い出す。
 

⇒第11回に続く

  
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