木下 そういう面もあって、問題視される場合もあります。たとえばホームレス支援を行う「コモングラウンドコミュニティ」というNPOが、巨大なホームレスの社会復帰用レジデンスをタイムズスクエアに作った事例もあります。これは貧困層のシェルターではあるのですが、商業地域にとって不都合なものを排除して囲い込んだ、と見ることもできますよね。もちろん路上生活よりも、職業訓練も受けられて社会復帰を目指せるから良い、ともいえます。良くも悪くも徹底するのがアメリカなんだなと思いましたね。だけど日本でありがちな、「是か非か」と議論して炎上しているだけで何も実現されないよりはマシだとも思いました。まずはやってみようと踏み出し、それを一定の価値観の人たちが支援する。合意形成が絶対条件ではなく、納得できる人たちでまずは始めてみるということに、アメリカの社会は寛容ですね。
久松 なるほどね。日本はやっぱり合意の調達が一番難しいし、そこでしばしば失敗する。木下さんもよく指摘されていることですが、「全方位に均等に」という思想だとやっぱりうまくいかないですよね。
木下 ダメですね。「意に沿わない人がいてはいけない」という感覚が深く根付いているので、直接の利害のない人にまで意見をきいて、合意を取り付けにいってしまう。
アメリカのエリアマネジメントの排他性は、多様性を前提にしている面もあるんです。大きな商業地区全体で一致した合意のもとに、単一の組織で、すべてを再生させなければいけないという考えではない。やりたいと思うエリアは地権者がお金を出し合ってやる、でもやりたくない町はやらなくてもいい。だから地区全体が均等に再生するわけではないんです。タイムズスクエアやグランドセントラル、ウォール・ストリートなどマンハッタンでも20近くそういうまちづくり特別区があって、すべてが違う特性をもっていて、バラバラで構わないと考えられていますし、エリア同士は適切に競争しています。
久松 「平等」の中身が日本とは違いますね。
木下 機会は平等に与えられるけど、その機会を使うも使わないも自由だし、使い方も自由、そういう平等性のあり方なんだと思います。大学3年の時にアメリカに行き、まちづくりに対する考え方の多様性や、多様な実行組織の存在に驚愕しました。その経験は今の仕事のやり方にも強く影響しています。「合意が大事」といいながら結局は潰し合うやり方よりも、完全に合意はせずとも互いを認め合って挑戦した結果を尊重するほうが、より良い地域ができるのかもしれない、そう思いました。
久松 利益相反による衝突が起こることを前提とした社会と、「そういうことはあってはならない」という建前でやっていく社会の違いなんでしょうね。
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