「ギリシャ警察は難民の命なんてどうでもいいと思っている。おぼれて死んだ人もいたと思う」
ファディ氏も海に投げ出され、漂流物につかまりながら3時間くらいは海の上を漂っていただろうか。手を貸してくれたのはトルコ警察だった。キオス島の近くまで連れて行くと「あとは泳いで行け」とだけファディ氏に伝えた。
SMSで連絡を取り待ち合わせたのは、フランクフルト中心部にあるマクドナルドの前。この街の住民の4分の1を外国人が占める。お互いすぐには分からないかもしれないと心配したが、5歳、7歳、9歳の愛らしい少女3人を連れ、マクドナルドの前の道の真ん中をたちつくす夫婦は他の外国人とは少し違って見えた。もちろん、自転車で現れた日本人の私に向こうも同じ感想を持ったに違いないが。
「どこかお店に行きましょうか」
私がそう言うと、「外ではだめですか?」と言う。店に入るのをあまりにも頑なに拒むが9月のフランクフルトはもう風が冷たい。
「子供たちに風邪をひかせたくありません。私がご馳走するのでお店に入りましょう」
それを聞いた子供たちは目をきらきらと輝かせ、父親に何か耳打ちした。父親はたしなめるような仕草をしたが、どうやら子供たちは「マクドナルドでアイスクリームが食べたい」と言ったようだ。
父親は「一番小さいのにしてください。自分は水だけで何も要りません」と言ったが、子どもたちは「チョコレートかイチゴのソースにしてね」と人懐っこく私の手をとった。
ダマスカスからトルコ、そして欧州へ
父親は昨年12月、ドイツに入国したシリア人難民のファディ氏、38歳。未だ正式な仕事は見つからず、フランクフルト市内にある難民収容施設内で通訳などをしながら他の難民と共同生活している。毎月、ドイツ政府から支給される手当は399ユーロ。この8カ月というもの生活費を50ユーロ以下に抑えて貯金し、先月、ついに家族をドイツに呼び寄せることができた。
この日、ファディ氏一家は難民支援のNGOが見つけてくれた市の中心部にあるアパートの下見にきていた。難民収容施設からアパートまでは4キロほどある。しかし、移動は地下鉄や市電ではなく、家族6人揃って徒歩での移動だ。