2015年9月23日の読売新聞は「EU、難民12万人受け入れへ……理事会で承認」との見出しの記事を掲載し「ロイター通信などによると、中東などから難民らが押し寄せている問題で欧州連合(EU)は22日に開いた臨時の法相・内相理事会で、ギリシャなどに到着した難民12万人を追加で加盟国が分担して受け入れる案を投票の結果、承認した」と伝えた。
この記事を冒頭で紹介したのは、平素から「中東」と「中近東」とは同じ地域を指すのかといった質問をよく受けるからだ。その説明の前に、我が国ではどちらが使われているのかネットで調べた結果を紹介しよう。
まず旅行会社の売込みキャッチフレーズは「アフリカ・中近東 ツアー一覧|海外旅行(ツアー)|ANA SKY WEB TOUR」「中近東ツアー・中近東旅行の予約はJTB」「中近東-トラピックス-阪急交通社」「中近東・アフリカ周遊旅行-海外ツアー-近畿日本ツーリスト」と見事なほど「中近東」派である。
それではと海外で活発に事業展開している大企業を見ると「三菱商事エネルギー事業グループ天然ガス事業部 中東天然ガス事業部」「日揮営業本部 中東営業部」「みずほ銀行プロフィット部門 欧州ユニット中東営業部」といずれも「中東」を使っている。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を引くと「中近東は、中東と近東の総称。主に便宜上の理由から使われる用語であり、その範囲は時と場合によって異なる」「ちゅうとう、中東(英語: Middle East, Mideast)は、狭義の地域概念では、インド以西のアフガニスタンを除く西アジアとアフリカ北東部の総称。西ヨーロッパから見た文化の同一性や距離感によって、おおまかに定義される地政学あるいは国際政治学上の地理区分」とある。
筆者の理解では国際的には「中東」という用語が一般的だ。欧米などでは「中東」は「MENA(Middle East &North Africa)」を指す。厳密に言えば「中東・北アフリカ」だが、それら諸国でも単に「中東(Middle East)」と簡略化して表現することが多い。
実は英米では今から約60年も前にこうした用語論争は決着している。例えば英国下院では1951年に時の外務次官が「近東の呼称は(中略)時代遅れとなり、中東という名称がこれに代わっている」(出所:『誰にでも分かる中東』小山茂樹、時事通信社)と答弁している。また、1956年2月1日のニューヨークタイムズ紙は「(前略)今後は中東をもって近東を指すものとして用いる」との広告を掲載している(出所:同上)。
我が国内では依然「中近東」を使用する向きもあるようだが、そろそろグローバル・スタンダードに合わせてはどうだろうか。
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