50歳だから結婚したい
「50歳になったのよ、私。……50歳と言えばもう老後に片足突っ込んだ感があるでしょう? そう思ったら、急に老後を一緒に歩く人がほしいなあと思えてきて……。こんなに本気になったのは初めて。本気で結婚がしたいの、私。だから贅沢なことは言わない。顔や体型は悪くても、優しかったら全然OKだよ」
メールをもらって会った彼女は、当たり前だけど、数カ月前に会ったときと、見た目上はなんら変わりなく、どこにどういう違いがあるのか、傍からはわかりづらかった。
40代までと50代では、そんなに違うものなのだろうか?
「そうねえ、50歳になったという事実もあるけど、50歳を前にして働き方が違ってきたというのも関係あるかもしれないね。ほら、私ってフリーで仕事を始めた20代の後半からずっと忙しく働いてきたじゃない? だけど、今って結構暇なのよ。そもそも最近は不況だし、年も年だから無理がきかなくなってきて、自分でも前ほどは仕事を詰めないようにしていたのね。それで自由な時間が出来たら、将来のことを真剣に考えるようになって、やっぱ結婚したいなあって……。今にして思えば、本当はもっと前から結婚という“約束”がほしかったのかもしれないけど」
50歳になったから「結婚をあきらめる」のではなく、「50歳になったからこそ、結婚したくなったのだ」と彼女は強く主張した。
どういう変遷を経て、そんな気持ちに至ったのだろうか。聞かせてもらうことにした。
仕事優先で、結婚は二の次
都内に生まれた美智さんは、小さいころから将来はイラストレーターになりたいと思っていた。大学は美術大学を選び、卒業後は広告会社に就職した。
「楽しかったけど、チラシの仕事が中心で、クリエイティブな感じじゃなかったかな。本当は、フリーで自由に描ければよかったんだけど、チャンスがなくて」
当時は同僚の営業社員と付き合っていた。その彼とは相性も良くて、「一緒に住まない?」と言われたときには、「ヤッター」と喜んだ。
「だって、家賃の心配がなければ、フリーになって好きなイラストを自由に描けると思ったからさ」
申し出を受けて彼と住み始めた美智さんは、宣言通り、会社を辞めて、イラストを描いて営業活動をした。
すると努力が実って、徐々に仕事が入るようになって行き、生活は充実していった。
結婚については、当時はまだ、「したい」とも思わなかった。